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村田製作所、オムロン ワコール、創業家が消えても繁栄する会社

 村田製作所の村田恒夫会長が6月の株主総会で相談役に退きます。創業者の村田昭さんの息子さんで、退任により取締役会から創業家出身者が消えます。直近では同じ京都発祥のオムロン、ワコールでも創業家出身者が経営陣から名前が消えています。一方、キヤノンやトヨタ自動車などは創業家の求心力に頼る経営に終始します。いずれの会社も「エクセレントカンパニー」。会社が繁栄を続けるために「創業家」は必要なのでしょうか。改めて創業家の存在とは何かを考えてしまいます。

 村田製作所はセラミックコンデンサーを軸に世界的な電子部品メーカーとして高い評価を受けており、株式市場の人気銘柄の一つ。販売動向はiPhoneなどスマートフォンの動向を占う指標になっているほどです。会長を退任する恒夫氏は2007年に社長就任して以降、根幹から枝葉を広げるように事業分野を広げ、売上高、営業利益ともに3倍程度に増やしています。もうちょっと長く居座っても市場からも批判は出ないと思いましたが、「村田」の名前とともに経営陣から去りました。

「村田」がなくても事業改革はできる

 同じ京都市で創業したオムロンも2023年、創業家の立石文雄氏が取締役から名誉顧問へ退き、1933年の創業以来初めて創業家出身の影が消えました。立石氏は日本経済新聞のインタビューで取締役を退任した理由について「2016年度から実施している従業員エンゲージメントサーベイで『企業理念』の浸透度が90%を超えてきており、相当な水準まで浸透した」と説明しています。創業家の威光がなくても、創業の理念は継承されると確信したのでしょう。

 とても興味深いのは、村田製もオムロンも足元の業績が苦しい時期に創業家が姿を消していることです。村田製は2024年3月期は主力のスマホ向けが中国経済の後退の影響を受けて2期連続の減収減益になる見通しで、スマホに頼る収益構造を改めるため、車載向けセンサーの拡大をめざしています。オムロンも2024年3月期の連結純利益の予想が前期比98%減の15億円。従来予想から165億円から大幅に下方修正しています。半導体や中国の電池関連の設備投資が低迷した影響を受け、主力の制御機器事業の利益が吹き飛びました。

トヨタは創業家の求心力に頼る

 創業家出身がトップに立つ会社の場合、創業家の求心力を頼りに経営改革を突っ走り、自らの立場を補強しがちです。直近ではトヨタが好例。豊田章男会長は日野自動車、ダイハツ工業、豊田自動織機と続くトヨタグループ企業の不正認証を改革するため、創業の原点に立ち返ることを強調、「とにかく道を走り、壊して直す、これを繰り返していくことこそがクルマを作ることだと思う」と自らの求心力の正当性を訴えています。

 確かに創業家出身のトップは求心力はあります。再び京都の事例となり恐縮ですが、ワコールの経営改革がわかりやすい例です。創業者の塚本幸一氏と新聞紙面上で「経営相談」のコラムを連載したご縁で、何度も何度も経営についてお話しする機会がありましたが、「後継者はかならず育っていくもんだ」と繰り返し強調していました。

 当時、息子さんの能交氏は下着メーカーでありながら自ら自動車製造に進出を表明するなど創業者の後継として危ぶむ声が多かったのです。ワコールの番頭役を務める役員が「クルマの事業はなんとか処理して、後継者としてちゃんと御神輿を担いで育てるよ」と苦笑していたのを覚えています。

ワコール創業者は息子の成長を確信していた

 能交氏は1987年の社長就任から31年間、アジアでのブランド戦略を展開してワコールを世界の企業に仕立てる一方、女性の登用などダイバシティなどに取り組みました。政府から「なでしこ銘柄」として選ばれ、ユニークな経営風土つくりは評価されました。その能交氏は2022年、代表取締役、取締役から外れ、名誉会長に退きました。ワコールはその理由として「経営体制の強化を図るため」と説明したそうです。

 ワコールは2024年3月期の連結最終損益で108億円の赤字になる見通しです。従来予想は48億円の黒字でしたが、低収益店舗の撤退や早期退職の募集など国内事業の構造改革費用として約60億円を計上し、150億円も赤字が膨らんだ計算です。

 能交氏が創業者の父、幸一氏の期待通りに経営者として育ったかどうかについてはちょっと疑問が浮かびますが、経営改革に向けて取締役会から身を引いたことについては、父・幸一氏は高く評価したでしょう。「この世に難関などない」という名言を残していますが、創業家の求心力などに頼らず、いつも新しいことに挑戦する企業風土があれば十分と言い切るはずです。

「創業は毎瞬」なら、新しい発想と人材が大事

 塚本幸一さんは「経営は毎年が創業、いや毎日が創業だ。さらに細分化していえば毎瞬が創業だ」とも述べています。創業家の役割が重要かどうかは問わず、新しい発想と人材で構造改革に取り組む姿勢を最も重視しています。この創業精神を守る会社の強い意思こそが会社の永続性を担保するのです。創業家に頼っていたら、そう遠からず息切れしてしまいます。

 村田製作所、オムロンは、その真髄に気づき、創業家へのこだわりを消え去ったのではないでしょうか。

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