
ニデックの成長戦略 中国でモーター拡充しても、牧野フライス失敗の傷は癒えず
ニデックの成長戦略からオーラが消えてしまうのでしょうか。7月に入り中国でモーターやコンプレッサーなど家電向け事業を拡充すると発表しましたが、牧野フライス製作所の買収失敗を帳消しにする迫力は皆無。
う〜ん、残念です。2030年に売上高10兆円をめざす成長戦略は電気自動車(EV)の駆動系基幹部品「E-Axle(アクスル)」と工作機械が2本柱。しかも、3兆円は企業買収(M&A)で上積みする目論見です。このままでは牧野フライス失敗の傷は癒えそうもありません。創業者の永守重信会長は再びあっと驚かすM&Aを秘めているはずです。
中国2都市で家電向け生産を拡充
中国の新規事業は2カ所。山東省青島市で家電用モーターの新工場を稼働させ、冷蔵庫や洗濯機に使うモーターを生産します。江蘇省常州市では常州シェコムエナジーテクノロジーズを完全子会社化し、空調やヒートポンプ、冷凍庫などの基幹部品コンプレッサーの生産を拡充します。
狙いは中国政府が打ち出す内需拡大策。低迷する国内景気をテコ入れするため、家電や自動車の買い替え補助金を3000億元(約6兆円)投入する計画で、大型白物家電製品に必須のモーターやコンプレッサーの拡大を期待しています。トランプ関税によって米国のみならず世界景気の先行きが不透明になっているため、米国と並ぶ大市場の中国で手堅く収益を確保できる家電製品に注力するようです。
果たして目論見通り進むのでしょうか。国内景気の低迷で苦しむのは中国メーカーも同じです。家電需要が底上げするとはいえ、当然ながら中国メーカーとの価格競争は激化します。元々、巨額投資するわけではありませんから、収益全体に打撃を与えを恐れはないですが、裏返せば10兆円の中長期目標を達成する牽引力も期待できません。
中国の過当競争は収益を圧迫
思い出してください。2020年代に入って祖業の小型モーターに続く大黒柱としてEVの駆動系基幹部品「E-Axle」に本格参入しましたが、中国製品の安値攻勢に圧倒されました。生来、強気の経営者である永守会長は販売計画は2025年度に400万台、2030年度には1000万台と高い目標を掲げましたが、大幅な赤字を招き、生産計画も下方修正を何度も余儀なくされました。
牧野フライス買収は次代の事業創造と謳ったEVの駆動系基幹部品「E-Axle」のつまずきを取り返す勝負手でもありました。これまでも工作機械メーカーを買収してきましたが、いずれも中堅ばかり。牧野フライスはNCフライス盤、高精度な立体加工を可能にするマシニングセンタ、放電加工機などを生産し、優れた工作機械メーカーとして世界でも知られる名門です。ニデックが手にすれば、世界を相手に工作機械事業を拡大できます。
しかし、日本で初めての「同意なきM&A」と打って出たものの、猛反発を受けて頓挫。正直、一敗地に塗れる勝負となり、ニデック、永守会長が放つオーラの輝きはかなり鈍ってしまいました。
新たな大勝負を期待
無理な注文かもしれませんが、牧野フライスに代わる大型M&A案件で勢いを取り戻して欲しい。創業者の永守会長は次代の人材育成をめざす大学を設立するなど産業界に大きく貢献していますが、前身の日本電産時代はかなり高い経営目標に向かって突っ走り、時間を忘れて仕事をする企業として知られていました。ほとんど真っ黒でした。その良し悪しは別として、それだけの迫力を世間に知らしめてM&Aを繰り返して売上高3兆円に手が届く企業に成長しました。
ニデックの成長力は誰が羨む永守会長の神通力にあります。「一発逆転」。企業経営で使ってはいけない言葉ですが、中国でのE-Axle、牧野フライスの失敗をチャラにする大勝負を見たいと思うのは私だけではないでしょう。
◆ 写真はニデックのHPから「E-Axle]