「ニデックって、なんなのさ?」ホント戸惑います だって未来が見えないよ
川口春奈さんが胸のロゴを指して、呟きます。「ニデックって、なんなのさ?」
テレビでこのCMを見るたびに苦笑しちゃいます。日本電産、創業50周年を機に2023年4月からニデックに社名を変更しましたが、小型モーターで世界一シェアを誇るブランドの強さの根源は創業者の永守重信さんにあります。
川口春奈さんのセリフに苦笑
ところが、その強さに危うさが漂っています。リーマン・ブラザーズ、日本航空、タカタ、東芝・・・。ブランド、シェア、技術力など高い評価を集めていた優良企業があっけなく躓き、経営破綻、あるいは破綻寸前に追い込まれています。
あんなに最強と信じていた企業が簡単に転んでしまう風景を見ているだけに、ニデックの危うさがどうしても気になります。なぜなら経営が窮地に追い込まれる主因は、ほぼ経営者の独断、あるいは後継選びの失敗に由来するからです。
ニデックの創業は1973年。創業者の永守さんは1967年に職業訓練大学校(現在の職業能力開発総合大学校)の電気科を卒業して、京都市で小型モーターの生産を始めます。最大の資産は自分自身の技術者としての自信。見事に世界企業に育て上げました。京都市は稲盛和夫さんの京セラ、塚本幸一さんのワコールなど個性的な創業者が育てあげた世界企業を輩出していますが、永守さんのニデックもその代表の一つです。なにしろ永守さんが卒業した職業能力開発総合大学校では、永守さんはヒーローです。
永守さんはヒーロー
ただ、最近、足元が覚束ない瞬間を見かけます。例えば後継者育成。社外から辣腕と呼ばれた経営者を社長に据えますが、いずれも数年でクビに。2021年6月には日産自動車の社長候補と目された関潤氏をCEO(最高経営責任者)に起用しましたが、1年足らずでCOO(最高執行責任者)へ降格。過去最高の業績を上げたにもかかわらず、「ニデックの株価水準に満足できない」を理由に永守さんは事実上のクビを宣言します。
その後任は副会長の小部博志さんでした。小部さんは、永守さんと同じ職業訓練大学校を卒業し、1973年に日本電産を創業したメンバーです。「絶対的に信頼の置ける人物」と断言しながらも、社長職は2024年4月までの期限付き。この2年間で新しい社長を育成し、選ぶ考えです。副社長ら現在の経営陣から選ぶそうです。
後継者で躓き
「外部の人間が内部の人間より優秀だというのは錯覚であり、外部から後継者を探し続けたのは重大なミスだった。今後、社外からトップを迎えることは考えていない」と反省していますが、果たして結果はどうか。「2度あることは3度ある」「仏の顔も3度まで」という繰り言が思わず浮かびますが、永守さんの発言で日経平均が上昇するほどの人気経営者としてのオーラは失せしまった印象です。
事業が順調なら、外野のヤジを無視していれば、かつてのオーラは戻ってくるはずです。ただ、次代の事業として注力する電気自動車(EV)向け電動アクスルは空回りしているようです。
2023年10月、永守会長は「今期に黒字を見込んでいたが、年間で150億円の赤字が出る」との見通しを明らかにしています。電動アクスルはモーターと減速機、インバーターを一体化しており、EVの心臓部品の一つ。カーボンニュートラル時代に向けて拡大するEV需要を睨み、パソコン関連のモーターで業績を伸ばしてきたニデックにとって、まさに次代を担う事業です。
23年度3月期は300億円の営業赤字を計上していましたが、EVが爆発的に増えている中国市場での伸びを見込んで黒字転換を表明していました。しかし、その中国市場で激しい価格競争に巻き込まれ、量的拡大よりも利益重視へ転換せざるを得なくなりました。
電動アクスルで空回り
電動アクスルの販売台数見通しも期初に94万台超を見込んでいましたが、54万台へ下方修正し、さらに35万台に引き下げることになりました。「早くやったら勝てる」と強気の戦略を打ち出し、中国市場を押さえ、欧米にも広げ、2030年度には1000万台へ引き上げる目標を一時公表していました。他社に先駆けて量産効果を引き出し、価格競争に打ち勝つ目算でしたが、早くも修正を迫られています。
永守さんが最も気に掛ける株価も6000円を割る水準です。全体の業績は過去最高水準に達していながらも、上昇力を失っています。2023年8月は8500円を突破し、9000円に迫る勢いでしたから、株主はニデックの未来に自信を持てないでしょう。
企業評価の最大のポイントは次代の事業創造と次代を担う後継者育成です。ニデックは今のことろ、合格点はギリギリなのでしょうか。輝きを放ち続けた日本電産を知っているだけに、ニデックがあの日本電産と同じ会社なのかと一瞬、戸惑います。
「ニデックって、なんなのさ?」