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日東電工 世界の先端技術を支える「カワイイ」日本の化学素材・製品

「カワイイ」。日東電工は世界で通用する日本語を体現する会社です。幅広い化学素材・製品を開発・生産しているので、ヒット製品の黒子役を演じる場合が多いのですが、需要拡大が著しいデーターセンター、スマートホン、自動車などの情報技術分野を支える製品が多く、市場の裾野が広がれば日東電工の業績も引き上げられる好循環が続いています。輝きを失っている日本の企業の中で「こんな会社がまだあって良かった」と何度も反芻しちゃいます。

黒子役だが、輝きは抜群

 直近の2024年4〜6月期決算も良い意味で裏切ってくれました。売上高は前年同期比19・6%増の2493億1000万円、営業利益は506億9600万円と前年同期実績の2・3倍。経常利益は505億9900万円と同じ2・3倍。第1四半期とはいえ、利益倍増はなかなかできません。

 前年同期実績をこんなに上回っていれば、通期見通しも浮上します。2025年3月期は売上高が7・3%増の9820億円、営業利益が29・4%増の1800億円、経常利益が29・6%増の1800億円。当初予想はともに1400億円でしたから、400億円を積み上げます。

 実は、2024年春先はちょっと寂しい見通しでした。前年度の2024年3月期は売上高が1・5%減の9151億3900万円、営業利益が5・5%減の1391億3200万円、経常利益が5・4%減の1399億100万円と減収減益。2025年3月期も当初の予想は売上高が微減で、営業利益、経常利益はともに横ばいと見ていました。市場の期待はもうちょっと改善する見通しでしたが、利益は1600億円を超えるとは読んでいませんでした。

キーワードはグローバルニッチトップ

 日東電工は、ディスプレーに使う液晶向け偏光フィルム、電子素材、医薬材料、高分子分離膜など多岐に渡っており、事業領域も家電・電子機器、自動車、住宅、医療、包装材料などに広がっています。製品数は1万点を超えるそうです。

 戦略の根幹は「グローバルニッチトップ」。市場規模はさほど大きくなくても、強い得意分野をより強くして世界シェアトップを握り、高収益率を維持するのが狙いで、シェアトップは20製品以上もあるそうです。これまで偏光フィルム、電子素材などが注目を浴びていますが、最近注力している核酸医薬の原薬では臨床試験向けで世界トップクラスのシェアに迫っています。この結果、海外比率も80%を超えています。

 直近の決算の上方修正の原動力も世界シェア重視が功を奏しました。データセンター向けの高容量ハードディスクドライブ (HDD)、スマホ・車載向けディスプレイそれぞれが予想を上回る伸びをみせました。「オプトロ二クス」と呼ぶ 光学フィルムを中心にした情報機能材料や回路材料は順調に伸び、電子部品や住宅などで接着・保護の役割を果たすインダストリアルテープも円安の風を受けて数字を押し上げました。

幅広い製品がそれぞれを補い、高収益を維持

 扱う製品が多いため、それぞれの需要動向に合わせて浮き沈みがあっても、ある製品の不振を好調な製品が補う事業構造になっています。好調な製品が増え、右肩上がりに向けて歯車が回り始めたら、収益力はグッと高まるわけです。2024年4月〜6月期はその好例です。また、需要がピークを超えた製品の撤収、新製品への移行もスムーズにできる仕掛けです。五輪競技の自転車やスピードスケート「団体追い抜き」のイメージを思い浮かべてください。

 例えば、海水を淡水化する逆浸透膜。技術力は高く評価され、水資源が不足する中東などで事業拡大が期待されていました。しかし、淡水化事業を展開する国や地域の環境に合わせた製品スペックの開発・生産がコストを上昇させるため、より高い収益を見込める気体分離膜に移行する方針です。技術を使って二酸化炭素(CO2)を回収する新技術の実用化にも取り組んでいます。工場が排出するガスからCO2を回収するコストを半減できるそうです。地球温暖化の対応策として脱炭素ビジネスは世界で広がっており、膜技術で環境分野の事業領域を底上げするのでしょう。

特筆は自然体の空気感

 やっぱり、「カワイイ」と思いませんか?世界を震撼させる大ニュースを発信することはありませんが、ユニークな技術を生み出し、最先端技術をより進化し続けることに努力する。もちろん、素材・製品それぞれには浮き沈みがあります。右肩上がり一本槍の事業はそうあるものではありませんし、依存するのも危険です。落とし穴にはまる前に1万点を超える製品が互いに補い合う経営戦略の妙が見えています。

 パッと身の派手さは皆無ですが、しっかり見極めれば他が真似できない素晴らしいことを成し遂げる。「いかにも日本らしい」という表現は使いたくありません。世界共通語の「カワイイ」がぴったり。

 特筆したいのは日東電工の空気感。グローバルニッチトップ戦略を率いた柳楽幸雄社長にお会いした時に痛感しました。社長以外の社員の皆さんとお話ししても、自然体で自社の事業の可能性を語り、自身の役割を楽しんでいました。会社が決めた経営戦略だから「やらねばならない」といった肩に力が入る雰囲気が見当たらないのです。なんか良い感じ。

 きっと、社長から社員までの皆さんは日東電工を「カワイイ」と信じているからなのでしょう。とってもクールです。

◆ 写真はホームページから引用しました。

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