
NTTは「シン電電公社」未来に挑むゴジラか、過去の栄光を追う恐竜か(下)
民営化で自由になった高揚感が手伝って、気分は世界制覇だったんじゃないでしょうか。まさに地球を駆け巡るゴジラ、いや通信会社なので飛び回るガメラ?かな。
NTTの海外投資はまさに堰を切った様でした。1999年から2001年までのわずか2年間、オランダのKPNモバイルに5000億円、英ハチソンに1900億円、台湾KGテレコムに600億円、韓国KTフリーテルに655億円、インドのタタ・テレサービシズに2600億円、極め付けは米AT&Tワイヤレスに1兆1000億円。ここまで足し算してもざっと2兆円を超えます。そのほかを含めると総額3兆円にしました。バスタブにお湯を注ぐようにマネーを海外通信会社に出資しましたが、いずれもバスタブから下水管を通してドブに捨てたようなものです。
海外投資3兆円をドブに
敗因は何か。AT&Tワイヤレスを見てみましょう。2001年、NTTドコモは約98億ドルを投じてAT&Tワイヤレスに出資します。当時、新聞社編集局でデスクとして、深夜に記者が取材した特ダネを新聞1面トップ記事に仕立て、掲載しました。日本円で約1兆1000億円と巨額ですが、米国の巨大通信会社ですから出資比率はわずか16%。経営権を握るには程遠く、今後の連携に向けて手を握る証書のような出資でした。
記者に尋ねました。「ドコモはAT&Tに影響力を保てないなら、1兆円を吸い取られただけじゃないの?」。記者は答えます。「ドコモはiモードなど携帯電話サービスで世界をリードしており、ドコモと共に世界標準のサービスネットワークを築きたいと考えている」。AT&Tは経営規模が大きくても携帯電話サービスは未熟。ドコモは出資比率が低くても両社の提携は十分に機能すると自信を持っていました。
iモードは世界で初めてインターネットを活用したメールサービスです。世界から高い評価を集め、アップルのスティーブ・ジョブスもiPhone開発のヒントにしたほどです。「手の平の上で通信革命が始まる」といわれた先駆だったのは事実です。しかし、その後がいけません。NTTには世界標準を築く経験もノウハウもありませんでした。
3兆円をドブに捨てた国際戦略はNTTの大きなる勘違いであり、驕りの象徴です。ITを軸にしたバブル景気が崩壊したこともありますが、海外の通信会社を経営する経験がないまま国際戦略を展開しても思うような成果を出せるわけがありません。むしろ足枷となります。多くの日本企業が経験した落とし穴にNTTもハマったのです。
NTTデータ子会社化は3兆円の教訓
もっとも、ドブに捨てた3兆円はNTTにとって海外投資の授業料。その反省のもとグループのNTTデータは海外展開を拡大します。今ではIBMやアクセンチュアなどと競い合うレベルだそうです。
NTTは2025年7月の社名変更に向けてNTTデータを子会社化します。NTTグループの海外展開の先兵として布石を広げたデータを飲み込み、NTTとして本格的に仕切り直すのです。新社名のロゴマークの字体をNTTデータが採用していた丸みのあるNTTに変更するのも、海外での広い認知度を意識したからです。失敗の連続だった2000年代から20年間かけて再びスタートラインに立つ執念の凄さを感じます。
しかし、NTTがグループ会社を取り込む求心力が事業戦略にプラスに働くのかどうか疑問です。ドコモを見てください。民営化当初、NTTの活力源となったドコモはその後の持ち株会社の支配権強化によって元気を失っています。最近では、通信品質などで評価が下がるなどライバルの携帯電話会社と差が開いている印象です。初代社長の大星公二さんの「破天荒ぶり」が懐かしい。
「アイオン」はISDNの二の舞?
NTTの島田明社長は分散したグループ企業の再編によって次代のNTTを創造する考えです。その代表例が次世代通信技術「IOWN(アイオン)」。光技術によって消費電力の大幅な低減と高速大容量データ処理を実現する画期的な技術で、NTTが独自開発しました。1年後に商用化し、専用デバイス(部品)の製造に乗り出す方針です。ここで一気にライバルの通信会社との差を広げる戦略です。
もっとも、光ファイバーを活用したISDNの失敗が強烈すぎて「アイオン」の成功をまだ信じられません。世界が驚く技術を持ちながら、事業化できないのが電電公社であり、これまでのNTTでした。
新社名NTTには、どうしても電電公社への郷愁を感じます。技術力、資金力に問題は微塵の不安もありません。期待されるのは自信過剰ではなく、革新力です。ドコモをだめにしてしまったNTTです。社名は違いますが、中身はかつての電電公社。小林旭が歌う「昔の名前で出ています」が蘇ります。
最近、名前に「シン」がつくことが流行りです。そのきっかけである「シン・ゴジラ」の「シン」は神、真、新の3つの意味を重ねたとされています。新社名NTTは望み通り「シン電電公社」として世界を飛び回るのでしょうか。「シン」に相応しい力を期待したいです。