パナソニック 自動車部品を売却 事業再構築のはずが出口のない迷路を彷徨うことに
経営改革はとは常に見直しが続き、終わりがないものです。ただ、正解に辿り着く手応えが感じらず、収益の柱となる中核事業が育たないとちょっと焦ってしまいます。努力と成果に自信を持てなければ、経営を支える従業員にも焦燥感が広がってしまうでしょう。
成果が出ない経営改革に焦燥感
パナソニックの経営改革を長年、外野席で眺めていると開発・生産、営業などの現場はどんな雰囲気なんだろうと疑問を感じる時があります。もう20年以上も大胆な経営改革を断行しながら、会社は前進しているのか足踏みしているのか。会社が消える「まさかの事態」はありえないでしょうが、5年後の自分がパナソニックに勤めているのかどうか自信はない。こんな空気が支配していたら、企業が躍進する力はかなり消耗しています。言い換えれば、経営改革疲れが出てこないのでしょうか。
パナソニックホールディングスは11月17日、グループの自動車部品会社「パナソニックオートモーティブシステムズ」の株式の過半を米国の資産運用会社アポロ・グローバル・マネジメントが投資助言するファンドに売却すると発表しました。2024年3月末までに最終的な詰めを終えるそうです。同社はパナソニックの自動車関連部門が統合され、2022年4月に設立され、売上高は1兆3000億円、従業員3万人の大企業です。自動車部品でいえば、いわゆる電装品分野に強く、運転席周りのディスプレーシステム、カーナビ、電気自動車(EV)用の車載充電器などを開発、生産しています。
売却先のアポロはEVを中心に自動車関連で積極的に投資しており、パナソニックオートモーティブシステムズもEVや自動運転など今後成長する分野に必要な技術開発投資に打って出て、収益力の高い事業構造への変革を急ぐ見通しです。将来、上場を考えているでしょうから、最終的にはパナソニックのグループから離脱する可能性もあります。
一方、パナソニックは、売却で得た資金は重点投資領域の車載電池や、ヒートポンプ式空調機の海外展開に力を入れる空質空調事業などへ振り向けるそうです。テスラ向けなどのEV用バッテリーは今後も伸びるため、収益力が確実に見込める部門にこれまで以上に資金を投入し、底上げる戦略です。
パナソニックにとって収益力の向上は急務です。なにしろ営業利益率は3・4%。10%を超えるソニーとは比較になりませんし、東証のプライム市場の平均6%の半分程度の水準です。2021年5月に就任した楠見雄規社長は2年間で競争力を強化すると宣言していますが、短期間で成果は上がらないとはいえ、ちょっと情けない数字です。
ここで疑問なのは、電装品はEV時代に高収益をもたらす事業領域です。現在の収益力の低さが売却の理由なのでしょうが、これから普及期を迎えて新たな収益源に育つ可能性が高いにもかかわらず、手放す経営判断は正解なのでしょうか。
もっとも、パナソニックの経営改革の歴史を振り返れば、楠見社長の経営手腕が劣るわけではありません。三洋電機はじめ数多くの企業を吸収・提携してきましたが、新たな収益源に育て上げられませんでした。松下電器の頃から電気製品ならほぼ全てを開発・生産してきましたが、突出した事業部門が登場しません。次代を担うと期待したテレビのディスプレー部門も韓国勢に敗れ、巨額投資をドブに捨てたも同然。ソニーと合弁会社を設立して復活を目指しましたが、結局は頓挫。
自ら新たな収益源を育てられない
成長分野と目される事業に進出する目利きは優れているのですが、事業として進化させる経営手腕がパナソニックには失われているようです。強固な財務基盤があるからこそ、経営危機に追い込まれませんが、経営改革の旗のもとで新規事業への投資、事業の切り捨てを繰り返している印象です。すぐに出口を発見できると気軽に入った迷路を彷徨い、自分の立ち位置すら見失ったかのようです。
創業者の松下幸之助さんを長年支えた江口克彦さん(PHP総合研究所前社長)が、松下幸之助さんの語録を例に経営の極意を次のように語っています。
幸之助語録からかけ離れる経営改革?
松下幸之助さんは成功した理由として「自分が凡人だった」「優れた人材に恵まれた」「会社の方針を明確に出すこと」「理想を掲げる」の4点をあげているそうです。江口さんは、最初の2点については部下らに対する感謝を示しており、「会社の方針」は社員の努力を知り、感動したい思いを表現しているそうです。「理想」は社員に誇りを与えたことを意味するそうです。松下電器を世界企業へ押し上げた原動力は従業員のやる気にあると松下幸之助さんは言っているのです。
パナソニックに限らず、ソニー、ホンダなど戦後の日本を代表する世界企業は素晴らしい創業者が示した経営が原動力でした。今更ながら創業者の語録に従えという考えは全くありませんが、現在のパナソニックは、松下幸之助さんが残した語録とかなりかけ離れてしまったのは間違いないです。事業の再構築を名目に事業の売却と共に従業員も一緒に切り出してしまっています。今後、パナソニック本来の強さを生み出す根源を従業員以外の何に求めれば良いのでしょうか。