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流通は再びパラノイアの時代 サイゼリヤの強さが映える(上)

 元気の無いセブン&アイをみていると、流通業の革新にはやはりパラノイアと呼ばれるほど事業に熱狂する経営者が必要と痛感します。経営力で評価が高い食品スーパーのヤオコーは商品戦略や店舗展開で快走していますが、良い点数を取るために頑張っている優等生の姿とダブり、人口減、インフレ進行、所得低迷など目の前の難壁を突破する爆発力を感じません。

国内の赤字を乗り越え、過去最高益へ

 経営にパラノイアを感じさせる流通企業は?外食チェーンのサイゼリヤはどうでしょうか。「客が驚くほど安い価格でイタリア料理を提供する」。創業から掲げる経営理念はコロナ禍で国内事業が赤字続きの窮地に追い込まれても、低価格を貫き通しました。直近の決算で過去最高益を計上し、見事に息を吹き返した経営を見ると、改めてサイゼリヤの突破力に刮目したいと思います。

 サイゼリヤが10月に発表した2024年8月期連結決算は売上高が2245億4200万円で前期比22・5%増。営業利益は148億6300万円と倍増。純利益も58%増の81億4900万円と過去最高を記録しました。単体で見ても、前年は14億9100万円の営業赤字でしたが、27億3700万円の黒字に転換し、復活を遂げました。1年後の2025年8月期連結決算の見通しは売上高が前期比13%増の2536億円、営業利益は12%増の166億円と予想しており、回復軌道に自信を示しています。

 サイゼリヤの凄みは、国内事業への姿勢にブレがないことです。コロナ禍で客足が大幅に落ちても、「イタリア料理を割安に提供する」を貫きますが、利益は赤字に転落。コロナ禍が収束に向かった2022年、2023年に入って黒字に転換するものの、期初の計画より大幅に下回ります。アジアなど海外事業が日本の不振を補う構図でなんとか凌ぎましたが、ライバルの外食企業が相次いで値上げしており、国内のメニュー価格を引き上げる誘惑に駆られたでのはないかと思うのはゲスの勘ぐりでしょうか。

勝利の方程式・低価格を堅持

 なぜ国内は値上げしないのか。誰もが抱く素朴な疑問に対し、サイゼリヤは創業以来築き上げたブランドイメージの堅持と答えます。よく取り上げられる例で恐縮ですが「ミラノ風ドリアは300円」という価格の安さは顧客層に定着しており、サイゼリヤ=安いというステレオタイプが開店と同時に満員にしてしまう勝利の方程式です。

 コロナ禍が明けて客足が戻ると、サイゼリヤの勝利の方程式はライバルを圧倒する集約力を発揮します。2024年8月期第3四半期を基準に見ると、来店者数は前年同期比で20%を超えています。

 「値上げしない」を誇示しながらも、客単価は上昇しています。メニューのコアは変更しないものの、3ヶ月ごとに売れ行きに合わせて品揃えを更新し、単価を引き上げていきました。こちらも第3四半期を基準に比較すると、国内の客単価は2020年は740円、2021年は754円、2022年は779円、2023年は797円、2024年は822円と着実に上昇。2020年から4年かけて11%も客単価を引き上げることに成功しています。

 この勝利の方程式をいつまで堅持できるか。注目したいですね。日本国内はエネルギーコストの上昇や円安の影響、賃上げなどで経費増は避けられず、この3年間を見ても販売管理費は10%を超える増加となっています。サイゼリヤの経営理念が試されることになります。

パラノイアを継承できるか

 サイゼリヤの低価格路線は、創業当初に追い込まれた窮地を脱する賭けの結果です。創業者の正垣泰彦氏(現会長)は途絶えた客足を取り戻すため、メニュー全てを7割引にしたそうです。押し寄せる客の行列を見て「低価格路線」の強さを確信したそうです。創業した店舗が名前の由来にもなった「サイゼリヤ」というフルーツパーラーの居抜きで手に入れたこともあって、店舗改装などにお金は使いません。削減できる費用は徹底する精神が社名に輝いています。

 創業者が当初の理念を守り通し、順調に成長路線に入った後も事業改革を継続するのはよくある例で驚きません。サイゼリヤが際立つのは、後継者がサイゼリアの強さを継承していることです。=つづく

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