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三菱自動車のミラージュ

軽EVは日本を救うか①サクラが咲き、ミラージュとマーチが消える 日本車は進化か衰退か

 一つの時代を画した小型車が相次いで日本市場から消えます。三菱自動車の「ミラージュ」と日産自動車の「マーチ」。その代わりというべきか。三菱・日産は軽規格の電気自動車(EV)で大ヒットを飛ばし、これから広がるEV市場でその存在感を一気に高めました。エンジン排気量1000CC級の小型車は日本の自動車メーカーが世界市場で台頭、躍進した原動力。故障が少なく割安。その強さが日本を欧米と並ぶ地位に押し上げました。ところが国内市場は日本独特の規格である軽自動車が小型車を駆逐。小型車の居場所が無くなります。

ミラージュとマーチ、自動車史に残る名車

 軽はこのまま次代の自動車市場EVも背負うのか。それとも日本市場のガラパゴス化の象徴で終わるか。日本車の未来を軽から眺めてみます。

 「ミラージュ」は1978年に登場、ヒット車を生み出せない三菱自動車のなかで輝きを放ちます。デザインは三菱らしく驚きは無し。半面、エンジンやシャシーなど基本性能はかるく平均を上回り、装備は無駄を省きクルマとして必要なものはしっかりと整える。質実剛健ともいえるコンセプトが他車との差別化に大成功。とりわけ東南アジアでは日本を上回る人気を集め、三菱の企業ロゴ「スリーダイヤモンド」はトヨタ自動車や日産に負けないブランドとなりました。

 2000年代に身売り寸前だった三菱自動車。その時も東南アジアで確実に売り上げが見込め、存続の希望の火を灯したがミラージュ。日本語で幻想と訳されてしまうのは、偶然としてもなんとも皮肉です。

 しかし、日本の国内市場は軽が圧倒的な強さをみせています。小型車販売は右肩下がりが続くため、ミラージュも主要販売先となっているタイへ生産を移管されています。朝日新聞によると、来年2月に日本向け生産が終了。在庫がなくなり次第、国内販売は終わります。根強い人気を守る東南アジアや欧米向けの車種は継続するそうです。

 日産のマーチもミラージュと同じ道を辿ります。初代は1982年に発売。近藤真彦が「マッチのマーチ」と売り込んだキャッチフレーズが耳に残っている人は多いはず。日本のみならず世界戦略車としての役割を担ったので、基本デザインは自動車デザインの第一人者ジウジアーロ。世界各国で現地生産の拡大に突っ走っていた当時の日産の意気込みがわかります。

 日産にとって小型車の基本モデルだけに、派生車種には「Be-1」など自動車史に残るクルマが相次いで誕生。その開発、生産の経験は今の日産にも引き継がれ、主力車で生きています。残念なことにマーチ自体は8月で生産終了を迎えたそうです。

新車販売の4割は軽

 名車が消える背景には、国内市場の大きな構造変化があります。1949年、戦後の経済復興を支えるクルマとして1000CC以上の「普通車」規格を下回る基準でエンジンや車体寸法が設定され、トヨタや日産が手掛けない軽自動車として誕生しました。高度経済成長期は大きなクルマを購入することは、豊かな生活を手にすることと重なり、軽より大きな小型車や上級車に人気が集まります。時代を象徴するのが「いつかはクラウン」というキャッチコピーでしょう。

 1990年代のバブル経済崩壊後、経済成長も年収も伸びが止まり、30年以上も横這いが続きます。自動車の普及率もほぼ満杯状態。豊かさの夢を託すよりも、普段使いの足として役割が変わります。とりわけ公共交通機関が間に合わない地方では、通勤、買い物など日常生活で軽は欠かせません。一家にクルマ2台があっても驚きません。

 今や新車販売の4割近くは軽が占めます。日産の国内販売も4割以上、三菱は5割を上回ります。全国に張り巡らす販売店網を維持するためにも、日産も三菱も数量が見込める軽は最重要製品となっているのです。

軽EVが国内の厚い壁を打ち壊す

 その日産、三菱にとって2022年は大きなステップアップを達成しました。両社でシャシーなど主要システムを共通化した軽EVが大ヒット、「カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。日産「サクラ」と三菱「eKクロスEV」です。軽の価格として破格ともいえる200万円を超えるにもかかわらず、受注が殺到。軽EVのデファクトの地位を獲得しました。

 日産も三菱もEVへの取り組みはトヨタなど他社に比べて先行していました。トヨタが開発したハイブリッドシステムに太刀打ちできないため、代わる環境対応システムとしてEVへ取り組まざるを得なかったからです。

 日産は2010年、「リーフ」を量産を前提にしたEVとして発売。三菱は日産よりも早い2006年に軽規格の「アイ・ミーブ」を国内で発売、プジョーやシトロエンにもOEM(相手先ブランド)供給しました。とりわけアイ・ミーブは卵に模した流星形の車体デザインはすばらくしく、近未来の電気自動車を予感させる素晴らしい名車です。

三菱のアイ・ミーブが源

 個人的にはアイ・ミーブの経験が2022年に発売した「サクラ」「eKクロス」のヒット作を生み出す源と考えています。当時の三菱は資金が不足で新車開発が思う様にできません。限られた開発資金で先駆的なイメージを放つ新車を開発したいという現場の思いがアイ・ミーブに結集しました。改めて眺めても、今の新車に比べて輝きは変わりません。

 軽「サクラ」「eKクロス」の大ヒットは、日本の自動車史に残る時代の区切りとなるはずです。EVが先行する欧米に比べて日本は不人気です。バッテリーの制約で走行距離が短く、充電設備がまだ少ないため、「ガソリン車よりも使い勝手が悪い」というのが理由です。

 しかし、サクラとeKクロスは公的補助による支援があったとはいえ、破格の価格にもかかわらず売れに売れています。それは日常生活に使用するなら、「使い勝手は悪くない」というユーザーの思いが浸透したからです。地方では戸建て住まいが多いため、車に乗らない夜間に充電することができます。昼間、通勤や買い物などで走り回るとしても1日100キロ程度なら問題ありません。

軽EVは日本のエネルギー安保にも影響

 これまで普段使いしているガソリン車の軽と代替しても、不便になることはない。しかも、ガソリン代が高騰している今、電気代も同じく上昇しているとはいえ、相対的に維持費は割安になります。

 軽EVは、日本でのEV普及を拒んでいた厚い壁を簡単に打ち壊したのです。このインパクトは見逃せません。単に自動車市場の壁を破ったことだけにとどまるとは思えません。日本車の開発、世界戦略、さらに日本のエネルギー安全保障にも大きな影響を与えるのは間違いないからです。

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