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クルマが消費財の王座を降りる日 トヨタ・クラウンの“進化”とEVが描く未来

 トヨタ自動車の高級セダン「クラウン」がフルモデルチェンジしました。新型クラウンについては何度も書いていますし、テレビCMや自動車専門誌の記事などで多く伝えられています。クラウンは戦後日本を象徴してきたクルマです。15代続いたセダンのモデルイメージを全面否定し、SUVの体臭をプンプン漂わせるフルモデルチェンジですから、注目を集めるのは当然です。最近のトヨタはテレビCMや新聞広告の効果に首を傾げていましたが、久しぶりにネット広告も含めてガンガン攻めている印象です。

トヨタは久しぶりに広告で攻めています

 トヨタの攻めの姿勢から焦りを感じます。クルマが消費財の主役から脇役へ変わる時代への予兆をつかんでいるかのようです。トヨタのクラウンが大きく様変わりしたにもかかわらず、覚めた空気を感じませんか。もう新車発売が社会の話題になる時代じゃないのだ、と。1980年代後半、バブル経済を象徴した日産自動車の「シーマ」を思い出してください。シーマ現象という流行語すら生まれました。新型クラウンから時代の息吹きを伝えるインパクトはありません。

 コロナ禍が長く続き、ロシアによるウクライナ侵攻などで石油などエネルギー価格が上昇、農産物など多くの商品が値上がりしています。インフレが始まっているかのような目の前の現況を冷静に眺めれば、「新車一台に夢中になれるわけがない」という声が聞こえてきそうです。

ある記事から焦りも感じます

 トヨタの焦りを感じるきっかけは一つの記事を見つけた時でした。トヨタ「bZ4X」とスバル「ソルテラ」の乗り比べです。この車は2022年5月に発売された電気自動車で、トヨタとスバルが共同で開発し、トヨタが生産しています。発売から1ヶ月も経ずしてタイヤとシャーシーを繋ぐハブボルトの不具合が見つかってリコール。しかも、即使用中止という異例のリコール措置です。

 原因はもう判明したのでしょうか。使用中止の措置が出たリコール対象の車にもかかわらず、試乗の記事が何本も出回ります。リコール後に掲載されているのですが、リコールに触れていない記事もあります。bZ4Xのリコールが生産計画の遅れが生じた新型クラウンとの関連を匂わせるものもあります。両車は傍目には外観が似ている気がしますから、部品の共通化などで兄弟車の関係にあるのでしょうか。メディアの常識なら掲載時期や内容を精査し、掲載を控える判断があってもおかしくないのですが、経済誌も含めて記事をよくみかけます。

 bZ4X・ソルテラは戦略車です。スバルにとって初めてのEVですし、トヨタにとってもSUVで高い人気を得ているスバルのイメージを借りて新しい顧客層を呼び込む作戦です。世界の自動車市場で主戦場になっているSUVをEVのマーケットにどう移植するのか。欧米各社も試行錯誤を始めています。セダンを含め4車型を発表した新型クラウンでも、現在の需要動向を踏まえればSUVタイプの「クロスオーバー」が主力を占めていくはずです。

EVは自動車市場のヒエラルキーを崩す

 トヨタは電気自動車でもSUVが台頭すると読んでいます。あくまでも憶測ですが、ここでリコールで一旦停車せざるをえないbZ4Xへの関心を再び呼び覚まし、日本の顧客の心にどこまで刺さるのかを探っているのかもしれません。試金石とはいえ、これから普及期を迎えるEVの手応えを確かめ、新型クラウンのマーケティング戦略を展開する考えです。誕生して数ヶ月余の新ブランド「bZ4X」と66年も継続した名門ブランド「クラウン」を同列に並べて申し訳ないのですが、bZ4Xがそれなりの成果を上げて新型クラウンが主役で演じる舞台を整える狙いが浮かび上がります。

 EVの登場は100年以上の歴史を積み重ねてきた自動車のヒラルキーを崩し始めています。

 私たちはここ10年、米テスラが電気自動車の開発と生産で七転八倒する風景を数多く見てきました。日本でもようやく普及する段階に入り、走行距離や充電などの課題が知れ渡り、ガソリンを燃料とするエンジン車とは全く違った発想で乗り回す必要があることがわかってきました。繰り返しになりますが、100年以上も積み重ねて築き上げた自動車マーケットの「ガラガラ、ポン!」が始まっているのです。

 新しい消費行動の指標の一つを日産自動車の軽EV「さくら」が示しています。発売から1ヶ月で予想を上回る販売実績を挙げ、快進撃しています。EVは公的補助金を利用してもガソリン車より高いと思われていましたが、さくらは100万円代で購入できる水準です。200万円近い軽も珍しくありませんから、割安感は十分にアピールできます。ガソリン車に比べて短い走行距離についても、通勤やスーパーなどの買い物など日常生活圏の利用に限れば問題ないと理解しています。ガソリン代の高騰が当分続きそうと考えれば、維持費が安いEVの選択は十分にお得感があります。

消費者はEVを見極め目を持ち始めた

 さくらが示しているのは消費者がガソリン車とEVを見比べ判断する目が養われてきたことを教えてくれます。費用対効果をしっかりと見極め、日常生活に必要なものは購入する。自動車に対する妙な思い入れはどこかに置き去りして、ガソリン代が負担になるなら長距離の移動は車を諦めて公共交通機関で移動する。時々、必要ならレンタカーを選べば良い。新車を購入して豊かさを覚え、満足するのは時代遅れになるのかもしれません。

車のコモディティー化は生き残りのルーを変える

 EVの普及の先にあるのは車のコモディティー化の加速です。ただ、コモディティーになったからといってどこのメーカーでも良いわけではありません。すでにコモディティー化を体験しているファッション業界では高級ブランドが存続する一方で、ユニクロなどのファストファッションが市場を席巻するなかでも「安かろう悪かろう」は消え去っていきます。

 ブランドをどこまで維持できるのか、維持できなければ価格競争の真只中でどう生き残るかのか。EVがどのように自動車マーケットを変えるのかが楽しみです。

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