
北尾吉孝は孫正義の影を2周遅れで追いかける SBIが サウジに接近、次は人工知能?
SBIホールディングスの創業者、北尾吉孝会長兼社長がサウジアラビアに秋波を送っています。石油の資源大国には豊富な資金が滞留しており、金融・投資に長ける北尾氏にとっておいしいパートナー候補。でも、どうしても既視感が拭えません。まるでかつてのパートナー孫正義氏の影を追っているかのようです。北尾氏はソフトバンクで孫氏の右腕として金融事業の拡大に貢献しましたが、「両雄並び立たず」のことわざ通り、自らSBIを設立して袂を分かちます。にもかかわらず、その後の北尾氏はまるで孫氏の背中を追いかけるよう。「孫正義の呪縛」から逃れられないのでしょうか。
サウジに拠点、投資信託も
SBIは2023年12月に国営石油会社のサウジアラムコと業務提携を検討することに合意。以来、首都リヤドに拠点を構える一方、サウジ株のETF(上場投資信託)を東証へ上場。2025年1月にはサウジ株を投資する投資信託を設定しました。
サウジアラコムはサウジアラビアにとって打ち出の小槌のような存在です。世界の金融の裏表に精通している北尾氏ですから、サウジアラムコを軸に投資資金を集め、SBIグループの金融事業拡大を加速するのは間違いありません。
失礼ながら、二番煎じにしかみえません。サウジアラビアといえは、どうして孫正義氏のビジョンファンドが真っ先に目に浮かぶからです。2017年5月、サウジアラビアの投資ファンドなどと設立したと思ったら、瞬く間に日本円で10兆円を超えるファンドを組成。その手腕とスピード感には脱帽しました。世界中から投資を求める爆発力にも驚きました。その後、巨額黒字と巨額赤字を繰り返す好不調に翻弄されるオチはありましたが、派手な立ち回りが得意の孫正義さんの面目躍如!と拍手するしかありませんでした。
孫正義氏は同世代ということもあって、若い時から奔走する姿をみています。「投資が上手な若者。事業会社は経営できない」といった揶揄を浴び続けていましたが、2006年3月にはボーダフォン日本法人を買収し、経済界を見返す意地を見せたのには舌を巻きました。NTT、auに並ぶ携帯電話会社ソフトバンクを育て上げた経営手腕はもっと高く評価されて良いと思います。
世界に張り巡らす人脈にも驚かされます。2016年11月の米大統領選に勝利したトランプ氏に日本人としては誰よりも早くニューヨークのトランプタワーで会い、握手を交わした光景は衝撃でした。中国のアリババ、半導体のアームなどの投資は近未来を先取りする成長力を見抜き、大成功を収めます。人工知能向けの半導体・エヌビディアには振られましたが、生成AIのオープンAIには猛烈なアタックをかけている最中です。
10年ほど前、米国経済ニュースメディアCNBCのチーフプロデューサーに「関心がある日本企業はあるか?」と訊ねたら「ソフトバンクの孫正義」と即答。「理由は?」と続けると、「日本で唯一のディスラプター(壊し屋)」と教えてくれました。確かに未来を見通す目、巨額資金を投資する決断力などは多くの日本人経営者には縁がないかもしれません。
孫正義の背中を追い続ける
そんな孫正義の残影を追い続けているのが北尾吉孝氏。2023年7月、SBIは台湾の半導体受託生産メーカーPSMCと8000億円を投資して日本に半導体工場を建設する計画をぶち上げます。日本政府が経済安全保障を理由に総額で兆円単位の助成金を支払って世界最大手の台湾TSMCを熊本県に誘致したお祭り騒ぎの余韻が残っていた頃でした。
誰もが素朴な疑問を持ったはずです。地方銀行を相次いで傘下へ収める日本有数の金融グループとなり、金融業界に深く根を張る人脈、豊かない資金力を持つ北尾氏がなぜ専門外の半導体へ手を広げるのか。しかも、PSMCは世界第6位の半導体受託生産メーカーで、業績も芳しくありません。
誰もが無理筋と考えます。案の定、1年後の2024年9月に半導体工場の建設はご破算に。撤退の理由を日本政府の補助金支給の条件などが計画を阻んだと説明しますが、すでにTSMCが熊本県の工場建設でクリアしているわけですから、SBI、PSMCいずれかの甘い見通しが災いとなったのでしょう。
寂しい投資家?
半導体の失敗に懲りたと思ったら、今度はサウジアラビアとの投資提携。師匠なのか盟友なのかわりませんが、孫正義氏の足跡をそのまま自らの靴を押し当てている姿が浮かびます。SBIという誰もが仰ぎ見る金融グループを創業し、育て上げた経営者です。それでも孫正義氏の背中を目で追いかけながら、金融という名の陸上競技場を周回する北尾吉孝氏の姿を想像してしまいます。
残念なのは、広げる風呂敷が小さい。「本当?」と驚かす孫正義流に程遠く、手堅く風呂敷を広げる器量にちょっとがっかり。競技場に例えれば1周どころか2周遅れのイメージ。普通なら「頑張れ」と応援しますが、なんとも寂しい周回遅れ。孫正義と北尾吉孝の関係をみていると、経営者を観察する生物学ってあり!と思えてしまいます。