• ZERO management
  • カーボンニュートラルをZEROから考えます。

セイコーマート 北海道発のコンビニは日本の人口減社会を先取り

 北海道を訪れて驚くひとつとして、コンビニエンスストア「セイコーマート」の存在があるかもしれません。最近、初めて北海道を訪れて観光した友人がセイコーマートを体験し、「とても便利なお店」と褒めていました。我が意を得たりです。

 コンビニといえば、セブンイレブン、ローソン、ファミリマートを思い浮かべる人がほとんどでしょう。とりわけ、セブンイレブンは創業者の鈴木敏文さんが販売データを精緻に分析して商品棚の構成、陳列などを徹底し、長年の勘に頼った小売業を大きく変革しただけに、コンビニのビジネスモデルはセブンイレブンが創出したと思われがちです

コンビニの先駆モデルとして走る

 全国的な知名度はセブンイレブンにかないません。そりゃそうです。本体はイトーヨーカ堂。創業家の伊藤雅俊さんは祖業の洋品店を総合スーパーに育て上げ、ダイエーと競い合いながら1970年代の小売業の産業化に尽力した人物です。鈴木敏文さんは、ヨーカ堂が築き上げた総合スーパーでは吸収し切れない時間帯と客層を狙い、米国のセブンイレブンからコンビニを導入しました。チェーン展開力、資本力を考えたら、ちょっとかないません。

 しかも、セブンイレブンなど全国チェーンは大都市を中心に集中してチェーン店舗で独占する「ドミナント戦略」を展開しています。物流などの経営効率を考えれば、特定地域に集中立地するのが得策ですし、お客さんも「セブンがあそこにあるから」というお馴染みの気分で来店する機会を増え、結果としてライバル店を排除する狙いもあります。セブン、ローソン、ファミマが地域ごとに偏って展開している風景をみるのも、この「ドミナント戦略」のせいです。

 セイコーマートは知名度、経営力で劣るかもしれません。ただ、コンビニの先駆モデルとして捉えたら、その位置づけは大きく変わります。セイコーマート(会社名はセコマ、本社は札幌市)は日本でも最も早くからコンビニビジネスを展開したチェーンの一つです。1970年代、愛知県のココストア、北海道のセイコーマート、東京のセブンイレブンの順序で第1号店を開店しています。その後、ココストアはファミリマートに吸収されます。どっちが最古か競っても意味はありませんが、セイコーマートが先駆の存在であることは間違いありません。

社会インフラとしての役割と期待

 コンビニは今や、社会インフラとして認められ、期待もされています。能登半島地震で閉店を余儀なくされていた全国チェーンの店舗が再開した時、「ようやくインフラの役割を果たせる」とほっとした表情で話していたのが印象的でした。セイコーマート がその道筋を築いてきたと考えています。

 その真髄は地域密着にあります。創業者の赤尾昭彦さんは「地域に寄り添う」を徹底しており、大手が撤退した地域にも要請があれば出店します。北海道は地図の見た目よりも広く、面積は東北6県プラス新潟県を合計した広さと同じだそうです。札幌市、旭川市などはともかく、主要都市をから離れた沿岸部や山間部は人口が少なくとても全国チェーンのビジネスモデルでは採算が合いません。

 出店する地域は北海道の市町村179のうち174に及び、出店地域の人口は北海道の人口の99・8%を占めています。もちろん、大都市のコンビニに比べ収益はかなり劣ります。コンビニ1店舗当たり商圏は3000人が目安ですが、1300人の初山別村にも出店しています。NHKの人気番組「72時間」で取り上げられ、ご存知の方も多いと思います。北海道の最北端に近い初山別村は、少子高齢化、過疎に直面しています。コンビニは、日常生活に必要な食料など日用品を揃えるだけでなく住民の生活、健康にも目配りしているのがわかったと思います。オホーツク海に面したある町に出店したら、一番売れたのがバナナだったそうです。「コンビニに行けば、バナナが買える」と住民が押しかけたそうです。

暖かさは惣菜だけじゃない

 コンビニで暖かい惣菜を提供するのが当たり前になっていますが、そのモデルもセイコーマート です。1994年に店内で調理して販売する「HOT CHEF(ホットシェフ)」を開始しました。セブンやローソンのように大規模に調理したものを配送するならともかく、各店舗ごとに調理しますから販売量や手間などを考えたら店舗の負担を増やすだけ。

「人の手で温かい出来立てのおいしさを提供したい」。その思いは家庭の味です。大都会、過疎に限らず独り住まいの高齢者が増えています。出来合いの惣菜は冷たく、一人で食事するにはちょっと量が多い。ホットシェフはおにぎり、お弁当、スナック類、焼きたてパンなどの出来立てが店頭を並び、その暖かさに触れるだけでホッとします。

人気のメロンパン

 ホットシェフで人気のメロンパンを食べました、テレビなどで登場する日本全国の人気メロンパンと違い、見た目は今ひとつです。パン生地が羽餃子のように薄く焼き上がった皮もあります。でも、なんとも言えない旨味と暖かさがうまい。パクッと食べると、ポロポロこぼれる柔らかさが人の手を感じさせてくれます。きっと、大手パンメーカーにはない危うい調理が魅力なのでしょう。

高齢化社会を支えるインフラに

 特筆すべきホットシェフは店員さんの暖かさじゃないでしょうか。セブンなどマニュアルに従った全国チェーンの丁寧さとは違います。店員の多くは地域の住民の顔、人柄を知り、お客さんも店員さんを知っています。高齢の男性が唐揚げを買おうとレジに立つと、「唐揚げだけで良いの?、ご飯はどうする?野菜は?」。レジに並ぶ商品をチェックします。商品をより多く販売しようというよりも、「〇〇さん」の体調を見てアドバイスします。店内でやりとりを眺めていると、店員とお客の境目があいまいになり、近所のお隣さんになっていることに気づきました。

 すべての店員が暖かい、というつもりはありません。ただ、コンビニが地域に密着すればするほど日本が直面する少子高齢化社会に深く関わることになります。高齢者の生活、福祉など身の回りの出来事がコンビニの周囲で起こり、その集落を支える役割を担うことを期待されます。セイコーマート は、急激な人口減に翻弄されている日本で求められるコンビニの進化系を提示しているようです。

関連記事一覧