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あぁ〜NHK前会長の勘違い「みずほ」は改革できた? 会長人事の宿痾が浮き彫り

 「NHKへの不満と批判……前会長がパブコメに異例の意見 文書を入手」

 1月9日付朝日新聞で興味深い記事を見つけました。前会長の前田晃伸氏に関する内容です。前田氏はNHKが公表した「NHK経営計画案」に対するパブリックコメントとして意見書を送り、人事制度の方針転換について批判しました。

前会長の前田氏がパブコメ

 前田氏は2020年1月、NHK会長に就任。「スリムで強靱なNHK」を掲げ、経営改革の柱として人事制度にも手を入れました。組織は「年功序列、縦割り型の組織」と評価し、根底から変革します。記者やディレクターなど職種別の採用を廃止してさまざまな職種を経験する制度に切り替えるとともに、管理職の選抜試験を始め、若手らを起用します。50代の職員は早期退職者の対象となり、「役職定年制」を取り入れ、管理職の若返りを加速します。

 前田氏の目には後任として2023年1月に就任した稲葉会長が決断した人事改革制度の修正は、時計の針を逆戻りにさせるように映っているようです。前田氏が推し進めた人事改革はマスメディアの現場を混乱させたとNHK内で反発が出ていました。稲葉会長は検証チームなどで精査しながら「修正すべきところは大きく修正する」と話していますが、管理職の選抜試験を廃止するなど大きく変わりそうです。

稲葉会長の人事改革を批判

 前田氏は意見書の中で「この前近代的な制度を改善しなければ、NHKに未来はないと考えました」「人事制度そのものも、密室評価から、かなり透明度の高い制度に変えてきました」と自身の改革の正当性を主張。一方で「新体制となり、改革派の職員は、次々と姿を消す事態となりました。(中略)古い体制を維持する方向にカジを切ったことは、誠に残念であります」「NHKは、永年縦割り組織できたため、内部抗争はDNA化しております。内部抗争の一方に手を貸すことは、異常と思います」と厳しく批判します。

 前田氏が指摘する通り、NHKは官僚組織です。かつての郵政省よりも役所体質だったかもしれません。しかし、それは前田氏がまさしく内部抗争のDNA化と呼ぶ通り、前田氏が会長時代にも同じことが繰り返されていたのです。人事改革を名目に会長を担ぐ派閥と反会長の派閥が入れ替わっただけ。

ネット配信の問題視は「冤罪デッチ上げ」と反論

 意見書ではネット配信業務についても反論しています。前田会長時代、衛星放送の番組をネットで配信することため、2023年度予算で約9億円の支出を決めていましたが、「放送法に抵触する」との意見が出ています。稲葉会長は事態を重視して、前田氏の退職金を10%減額したほか、役員6人を厳重注意し、報酬の一部を自主返納しました。

 前田氏は「冤罪デッチ上げ事件だ」と強い言葉を使い、「新しいサービスの提供をする為の準備」「放送法違反のおそれがあるという指摘は、完全に間違いです」と反論します。

 この意見書を読む以前から、前田氏が会長時代の頃から人事改革については、何か勘違いしているのではないかと疑問を抱いていました。経営トップとして君臨したみずほなど銀行業界の常識とマスメディアの世界があまりにも食い違い、より優れた組織を目指して軌道修正すべきと考えていたのでしょうか。

前田氏がお膝元のみずほは組織としてどうか

 前田氏の意見に耳と傾ける価値はあると思います。ただ、あえて指摘したいのは、お膝元の「みずほ」は前田氏が考えた通りに改革できたのでしょうか。「みずほ」は第一勧業銀行、日本興業銀行、富士銀行の3行が合併して誕生しました。前田氏は富士銀出身で、2002年4月にみずほホールディング社長、2009年4月にみずほフィナンシャルグループ会長を歴任しています。

 みずほの現状を見てください。度重なる金融システムの障害が続き、その障害に対する対応も含めて行内の無責任体質が批判され続けています。3行合併して誕生した後も、出身銀行を引きずる縦割り体質、嫌がらせ、責任転嫁などが後を絶たず、2021年のみずほ銀行の8度に及ぶシステム障害の際には、金融庁はみずほ銀行とみずほフィナンシャルグループに「システム更改及び更新等に係る適切な管理態勢を確保すること」「銀行持株会社として(中略)管理態勢の状況を適切に経営管理する必要がある」と指摘し、システムの運用とガバナンス態勢の見直しを求める業務改善命令を出しています。

 みずほの行内の空気はどうだったのでしょうか。前田氏が経営トップを務めている期間、日本のメタルヘルスの権威にお会いしたことがあります。「あんなに酷い組織はない」と手厳しい言葉を放ちました。みずほの行内のモラル低下は目を覆うばかりだったようです。

 みずほは金融庁からもメンタルヘルスの権威からも組織として認められていないのです。しかも、前田氏が批判するNHKの縦割り体質と見事に重なる気がします。  

会長の選任制度にも課題

 もっとも、NHKに関しては前田氏の手腕を問う以前の問題があります。会長選任の制度、あるいは選任過程に難があるようです。制度としてはNHKの会長は経営委員会が任命します。人事案を 総務大臣に提出した後、内閣を経て国会で審議・承認を受けます。

 前田氏が会長就任した当時の首相は安倍晋三氏。前田氏は安倍晋三氏を囲む経済人の「四季の会」メンバーでした。四季の会は安倍氏を支えた葛西敬之JR東海名誉会長が創設し、主宰していました。安倍首相時代、四季の会メンバーからNHK会長が輩出しています。2007年6月、同会の古森重隆富士フィルム社長がNHK経営委員会の委員長に就任し、その半年後に同会の福地茂雄アサヒビール元会長がNHK会長に就任しました。その後任は松本正之・元JR東海社長。この流れを見ると、四季の会の前田氏がNHKの会長として適切かどうか以前の力学が働いていたと考えても不思議ではありません。

 2023年1月に前田氏からバトンタッチされた稲葉延雄氏はどうでしょうか。東京大学を卒業後、日本銀行に入行。理事を経てリコー取締役会議長などを経てNHK会長に就任しました。個人的な感想でいえば、最近発表したNHKと東大との包括協定には疑問があります。

それでは稲葉会長は?

 NHKと東大は互いの人材や保有するデータなどを利用して、日本や世界が直面する地球温暖化問題、防災や減災、さらに教育研究の振興などについて共同で取り組むそうです。NHKのアーカイブス、東京大学が保有する歴史的資料使い、日本の近代・現代の歴史を検証するほか、気候変動や食糧問題など地球規模の課題に挑み、未来へ提言するそうです。

 「なるほど」と納得するかもしれませんが、NHKは公共放送です。NHKが保有する資産は国民にあまねく公開され、利用されるのが当然です。2010年からアーカイブス100万本は公募方式で研究者らが利用できる道を開いていますが、東大が包括連携協定を利用して他の大学や研究機関、国民に比べて優先的に人材やアーカイブスなどのデータを活用するとしたら、不平等になりませんか。

 しかも、東大との連携をきっかけに共同研究などの成果を番組化し、テレビやラジオなど積極的に放送するはずです。包括連携の下で番組制作となれば、東大に対し他の大学などに比べて一段上の評価と権威を与え、東大が最も優れた大学というイメージを視聴者に与えます。東大の立場から見れば、確実に大学のイメージアップになります。

 連携する理由にも首を捻ります。NHKは2025年に前身の社団法人東京放送局から100年の節目を迎え、東大は2027年に創立150周年を迎える。「このタイミングで、双方のノウハウを生かし、社会的課題の解決と教育研究の振興に貢献する狙い。未来に向けて連携・協力を進めていく」と説明しますが、タイミングになっていますか?稲葉会長が東大出身だから、まずは包括協定を東大と結んだとは受け止めていませんが、協定のきっかけが理解できません。

 前田氏、稲葉氏を見る限り、NHK会長はオールマイティなのだとわかります。国民から受信料を徴収する公共放送を指揮する人材がガラス張りの選考過程で決まるなら納得します。でも、疑問が続くのはなぜか。NHK会長の人事制度そのものに宿痾があるのでしょうか。

 「NHKへの不満と批判……前会長がパブコメに異例の意見 文書を入手」

朝日新聞の記事はこちらから https://digital.asahi.com/articles/ASS1666YPS15UCVL03D.html?iref=comtop_7_01

「NHK・東大の包括連携の不思議?公共放送は全ての大学に公平中立を貫いて」

「From to ZERO」で掲載しています。ぜひお読みください。(記事はこちらから;https://from-to-zero.com/zero-management/nhktoykouniv/

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