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やっぱりソロキャンプを選んだスノーピーク ファンドに惑わされず自らの力を冷静に

 やっぱりソロキャンプの道を選びました。アウトドア用品大手のスノーピークです。キャンプファイアーの炎のように激しく燃え上がっていた業績は、パチパチと音が聞こえるぐらいに下火に。2月初旬の株価は800円台。4490円に届いた2021年11月に比べ5分の1以下です。2月上旬には米投資ファンドと組んでTOB(株式公開買い付け)して株式を上場から非公開へ切り替えるニュースが伝わりました。株価はMBO(経営陣が参加する買収)の思惑で沸騰しましたが、経営の内実はまだ何も変わっていません。

 改めて焚き火にかざす手を眺め、自身の仕事を見詰める時間が欲しい。とても大事な事です。この10年間の成功体験を振り返るのは、気持ち良いかもしれません。でも、投資ファンドに惑わされたら、社名のスノーピークが溶けてしまった燃えかすが目の前に残っているだけですよ。

米投資ファンドとMBO

 ソロキャンプに浸りたい気持ちは十分にわかります。2月13日に発表した2023年12月期決算は大幅な減収減益。売上高は257億2800万円、前期比16・4%減。営業利益は9億4300万円、74・3%減。純利益はなんと100万円、99・9%減。数字を繕うのに必死だったのでしょう。見る影もありません。1年前の2022年12月期は売上高307億7300万円と過去最高を記録し、17期連続の増収を維持。キャンプ人気に代表されるアウトドアブームの上昇気流に乗った象徴として高い注目を集めていたのですから。

 この10年間、7倍も成長しています。キャンプブームに乗った勢いだけのメーカーだとは考えていません。地力はあります。創業の地は金属加工の産地で知られる燕三条地域。キャンプなど使われる金属製品のデザインは群を抜いて良く、品質も高い。多少値段が高くても、子供の成長に合わせて長年使用するファミリー層の心を捉え、販売が伸びるのは当然です。製品デザインも優れています。金属加工で磨いた無駄を排した燕三条産の特性を生かした衣料など生活用品のブランド化にも成功し、若者やインバウンドなど海外のお客の心を掴みました。

2023年度は一転、泥沼に足を取られる

 ところが、2023年度から足踏みどころか、ぬかるみに足をとられたかのようにフラフラに。2023年12月期は当初、売上高360億円、営業利益50億円という業績予想を公表していましたが、上半期は大幅な減収減益。下半期の見通し予想は下方修正しながらもなんとか踏みとどまる努力をみせましたが、内実を見ればすぐに数字の辻褄合わせだと分かります。23年12月期の悲惨な数字は予想通りでした。

 要因は単純です。目の前に燃え上がるキャンプファイアーの炎の大きさに幻惑し、身の丈に合わない経営目標に突っ走ったことです。山井梨沙社長が既婚男性との交際及び妊娠を理由に辞任し、主力顧客のファミリー層が離れたとの見方もありますが、影響は限定的でしょう。日本国内も海外も月別の売り上げは右肩下がりとなっています。需要予測を見誤り、ありもしない市場拡大に期待して商品力、マーケティングに注力し、大外れしただけです。言い換えれば、自ら掲げた理想を追い求め、身の丈に合わない経営戦略に打って出た誤算が、自らの決算に誤算となって現れただけです。

「モノからコトへ」モデルは素晴らしい

 もっとも、スノーピーク本来の強さを見誤ってはいけません。「モノからコトへ」。キャンプ用品というハードウエアを売るのではなく、キャンプなどアウトドアライフを楽しむコトを売る発想は群を抜いています。店舗のコンセプトを見れば一目瞭然。アウトドア用品を販売するというより、アウトドア用品を使ったライフスタイルの提案に努めています。コトを生み出すソフトウエアに磨きをかければ、再び経営の勢いは燃え上がります。

 地方創生をキーワードに全国の自治体とも連携を深める戦略も見逃せません。サザンオールスターズなど人気エンターテインメント・ソフトを多数抱えるアミューズも、地域密着型のアウトドアビジネスに力を入れ始めています。すでに星野リゾートが地方のホテル・旅館の再生ビジネスでモデルを構築しています。スノーピークの新しいターゲットが的外れとは思えません。

創業家とファンドの思惑は?

 次の焦点は「MBOによって経営の主導権を誰が握るのか」。主要株主は会長兼社長で創業家の山井太氏が14・1%、前社長の山井梨沙氏が1・93%を保有し、創業家が筆頭です。ただ、投資ファンドの狙いは、再上場によるリターンにあります。スノーピークの時価総額は300億円を超えるそうです。巨額を投じてさらに上場時の株価を高めるために、スノーピークの身の丈を超えた経営戦略に打って出ることはないか。創業家とファンドの理想が食い違うのは、これまた当たり前。ソロキャンプでじっくりと過去と未来を考える時間が必要です。

 薪で燃やした焚き火で沸かしたお湯で割って飲む焼酎はとてもうまいです。山井さんはきれいな星空、そして残雪で輝く山影を眺めながら、明日を考えてみてください。自身が築き上げた成功の頂をもう一度、下野から見上げてみてください。登山は頂上を目指すよりも下山の決断が大事だというじゃありませんか。キャンプファイアーの炎はいつでも消せます。

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