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太陽光、ドローン、EV・・・中国製が突き付ける世界制覇の「市場原理」

 中国・二輪車最大手のヤディアが2025年夏に日本で電動二輪車を発売します。規格は電動原付1種で、エンジン50CCと同様に普通免許を保有していれば運転できます。価格は10万円程度。ホンダの製品に比べ6割も安い。電動アシスト自転車と同じ水準ですから言葉を失います。ヤディアは電動二輪を年間1600万代を販売する世界大手とはいえ、その価格破壊力には舌を巻くしかありません。

2輪EVが10万円台

 中国製の価格破壊力は、すでに鉄鋼、太陽光パネル、ドローン、電気自動車(EV)で目撃済みです。今さら驚くこともないと言われるかもしれませんが、世界の価格体系が根底から崩れる様は何度見ても悲惨なものです。中国製品が世界市場に溢れることで価格競争が激化し、ライバル企業同士の切磋琢磨が進むことは購入する消費者にとってプラスになりますが、中国以外の国の企業が市場から駆逐されたら、結局は消費者にも世界経済にもマイナスになります。

 国が強力な支援策によって自国企業、経済を建て直す「国家資本主義」。中国やロシアなどが活用してきました。国を後ろ盾に投資やM&Aを展開するので、巨大企業が短期的に誕生しますが、国と企業の境目を失った産業政策は市場原理の機能も奪い取ってしまいます。

 本来の企業経営とは縁遠く、常に国が脇を支えてくれないと立ち行かなくなります。見かけ上、資本主義のフリを演じていますが、世界制覇を目的にした市場原理の濫用です。その結末は資本主義でも社会主義でもない。国家資本独裁とも呼ばれる横暴な企業がそこに存在するだけで、世界にとって何の利益ももたらしません。

ドローンから中国の世界制覇を実感

 最近、中国企業の世界制覇を身近に感じました。ドローンの実機を操作したいと考えて無料の市民講座に参加し、座学と実習を体験したのです。ドローンの機材は重量200グラム超の小型で、一見、オモチャのよう。操作も、2本のリモコンレバーを上下左右に操作するだけで、前進、後退、左右、回転と縦横無尽に動かすことができます。5分間ぐらい操作すればだいたいツボがわかり、ドローンが自分自身と同期する楽しさを感じました。

 ドローンは機体登録や操縦者技能証明、航空法の順守など法的な手続きを経なければ屋外で飛行できません。自動車免許を持っていなければ公道を走ることができないのと同じです。ドローンの操作は航空法などの制約を受けない公民館の室内だけでしたが、使い勝手の良さからビジネスや戦争などで利用されるのも納得できました。

 「ドローンの価格はいくらですか」と講師に質問したら「10万円程度で買える」との答。「日本のメーカーですか」と尋ねると「中国のDJIと呼ぶメーカーで、世界最大手。世界の90%を超えるシェアを握っています」と教えてくれました。素人の目には子供の頃に遊んだリモコン飛行機の進化系と映りますが、ドローン1機にGPSなどを使った位置情報、飛行姿勢の制御など最先端のセンサーや半導体が使われているそうです。

 基本的な機材は日本メーカーでも開発・生産できると思いましたが、全く勘違いでした。鉄鋼、太陽光パネルに続いて中国政府が産業政策の柱として推進するドローンでも、収益を度外視した開発や量産が繰り返され、日本企業では太刀打ちできない安価な部品、生産コストが裏打ちされていました。ドローンを片手で持ちながら、電気自動車(EV)で旋風を巻き起こしている中国BYDの凄さと怖さを改めて実感しました。

経済合理性を超えた生産と販売が世界を壊す

 BYDは今や、EV市場を創造してきた米テスラを追い抜く勢いです。価格は小型セダンなら日本円で100万円程度も安く、中国国内のEV市場拡大による量販効果をテコに欧州市場を席巻しています。中国政府の支援を受ける中国製EVを締め出すため、欧州連合(EU)は関税引き上げによる対抗措置を打ち出すほどの脅威を振り撒いています。

 躍進を支えるのは、やはり中国政府。損得勘定を無視したかのようにEV関連の部品を大量生産させ、国内市場から海外の自動車メーカーを振り落とし、過剰生産によって実現した低価格のEVを欧州など世界に販売しています。

 EVでの攻勢はすでに太陽光パネルで演じられた世界制覇の再現です。再生可能エネルギーの柱となる太陽光パネルを使った発電はドイツなど欧州で拡大していましたが、中国政府は過剰ともいえる輸出戦略を展開し、ドイツなど欧州メーカーの脱落を引き出しました。日本も同様です。

 IEAの調査によると、太陽光パネルの供給量は2024年末には需要の3倍にも膨らむそうです。当然、価格は暴落しており、2028年までにさらに40%下がると見ています。価格がここまで暴落すれば企業経営が成り立つわけがありませんが、中国の供給過剰が修正されると思えません。

 ライバル企業を駆逐したドローンのDJIの実績を念頭に置けば、EVが太陽光パネルと同じシナリオが描かれていると考えるのが道理です。太陽光パネル、ドローン、EV、いずれも地球の未来に欠かせない基幹技術です。世界の平和と繁栄に活躍して欲しいですが、果たしてどんな結末を迎えるのか。心配です。

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