スズキとダイハツ統合 EVで王手 環境技術の壁、トヨタとの確執を乗り越えて
「うちの開発部隊は静岡大学工学部の出身ですから」。鈴木修さんはスズキの技術力について話す時、よくこのフレーズを使います。静岡大学工学部は前身が浜松工業専門学校。優秀な技術者を輩出しており、ホンダの創業者である本田宗一郎さんが自動車部品の技術を学ぶため聴講生として通ったことでも知られています。
見下しているわけがありません。スズキはトヨタ自動車や日産自動車、ホンダなどに比べて企業規模、研究開発投資などで常に劣勢に立ち、技術者など人材の採用面でも静岡県浜松市を拠点にするので優秀な人材は東京や名古屋に流れがち。鈴木修といえば「おれは中小企業のオヤジ」というフレーズで有名な経営者ですが、「静大工学部」も自虐ネタとして使いながらも総合力で上回るライバル企業に対する意地と覚悟を表明しているのです。
電動化は排ガス規制に続く危機
GMやVWとの提携、インドやハンガリーでの海外生産など世間を驚かすビックプロジェクトを成し遂げてきた辣腕の経営者です。その鈴木修さんであっても、思わず立ちすくんでしまったのが自動車の電動化などの未来投資。中長期的な視点に立つ技術開発投資はスズキ本体だけでなく部品メーカーも含めたグループの総合力が問われます。
トヨタ自動車がハイブリッドエンジンに続き水素を燃料に使う「MIRAI」の実用化で環境技術の幅を広げる一方、国内外のベンチャー企業へ積極的に投資し、自動車の未来に欠かせない技術のタネを集めていますが、スズキにはその余力はありません。
なにしろ主力の軽自動車は価格が売れ行きに直結します。「工場には一円玉が落ちているんだよ」。鈴木修前会長は年1回必ず「工場監査」との名目で国内外の工場を隅々まで歩きました。生産・技術の現場に素朴な疑問を投げかけ、細かく指示します。「技術者にとって当たり前なことでも、軽を購入するお客様にとって不便なこと、無駄なことがたくさん隠れている」と現場を見詰める目線を語ります。
コストカットの徹底は事務部門でも手抜かりはありません。多額な出張費を抑制するため、若手社員からアイデアを募り新幹線の回数券を何枚も多用して東京ー浜松の交通費を大幅に削りました。「スズキの社員は企業の回数券を何枚も持って東京へ行くんです」と嘆く幹部もいたほどです。コピー代のカットがテーマになった時は9割も削減しました。
経産省など霞ヶ関からスカウトする役員候補の給与も例外ではありません。「スカウトしてくれるのは嬉しいのだが、スズキの役員給与はトヨタなどに比べると低いので、うれしいやら悲しいやら」と本音を明かす霞ヶ関出身の役員もいました。軽自動車トップのシェアを維持するためには自動車メーカーのメンツなど気にしていられないとの哲学は全てに行き渡っています。