スズキがトヨタにEV ダイハツに代わり小型車を負う「鈴木修・豊田章男」がグループ力学を変える
スズキがトヨタ自動車へ電気自動車(EV)を供給します。スズキがインドで生産したSUVを2025年春からトヨタブランドで世界販売します。トヨタは小型車の一部をダイハツ工業から調達してきましたが、EVでスズキから初めてOEM(相手先ブランドの供給)を受けます。ダイハツはトヨタの完全子会社とはいえ、2023年4月に不正認証が発覚して以来、トヨタの関係は冷え切っています。一方、トヨタの豊田章男会長とスズキの鈴木修相談役の信頼関係を反映して、スズキを重視する流れが加速。次代を担うEVをスズキから調達するのも通過点にすぎません。トヨタグループの力学の変化が明確に現れ始めました。
開発はトヨタグループ
スズキがトヨタブランドで供給するのは、全長は4メートル程度の国内外で人気が高い小型SUVです。すでに試作車はトヨタは「eVX(イーブイエックス)」として公開されています。スズキが得意とする小型四輪駆動車で、デザインも世界の自動車メーカーがEVで採用している流れを踏襲しており、日本、欧米アジアの世界販売をかなり意識しているのがわかります。
EVの駆動系プラットフォームはスズキ、トヨタ、ダイハツの3社が共同開発したと説明しますが、事実上トヨタグループが開発したと理解して良いでしょう。スズキとダイハツはまだEV初心者で、基幹技術はとてもとても。現在、開発中の軽商用EVですらまだ発売時期が見通せていないのが現状です。
電機モーターなど駆動力を発揮するシステムは、トヨタ系のアイシンが担当したはずです。バッテリーは中国から調達するそうです。車体はインドのスズキ・モーター・グジャラート社で生産しますから、駆動系やバッテリーなどをインドに輸出し、現地の関連会社が組み立てる流れになります。2025年春から生産開始する予定です。
スズキのインド製EVをトヨタブランドで世界販売することは、トヨタのEV戦略にとってとても重要な一歩ですが、トヨタグループ内の力学が大きく変わる転機といって良いのではないでしょうか。トヨタは発表文の中で次のように強調しています。
発表文で鈴木修、豊田章男の信頼関係を強調
スズキとトヨタは、共に遠州(現静岡県西部)を発祥の地とし、織機から自動車へと時代に合わせて新たな事業に挑戦してきたルーツを持ちます。2016年に、スズキの鈴木 修会長(現相談役)とトヨタの豊田 章男社長(現会長)により業務提携の検討を開始して以来、人々に移動の自由や楽しさを提供すべく、両社で様々な協業を進めてきました。両社の協業分野は、生産領域やOEM相互供給、電動車の普及など多岐にわたります。また、協業車両の導入地域は、日本、インド、欧州、アフリカ、中東に拡大しています。
トヨタとスズキが発祥の地、祖業とも一緒であり、しかも2016年当時の鈴木会長と豊田社長の名前をあえて上げ、両社の強い絆をアピールしています。世界戦略上、要となる新しいEVとはいえ、発表文に個人的な関係を改めて強調するのはかなり異例です。
鈴木会長は1980年代から米GM、あるいは独VWの世界の大手と資本提携して中堅自動車メーカーとしての生き残りを目指してきました。結局はGM、VWと袂を分け、最後に頼ったのがトヨタです。かつて血が流れるとまで言われたダイハツとの軽の販売競争に終止符を打つとともに、自身の後継として託した長男の鈴木俊宏社長の経営基盤をしっかりと固めるのが狙いでした。
提携といえば、聞こえは良いですが、本音はトヨタとダイハツを抱き込む大胆な決断でした。豊田会長も鈴木会長との厚い信頼関係を足場に接近、今は完全子会社のダイハツよりもスズキの方が親しいのはないかと推察するほどです。
スズキはトヨタの小型EV戦略を支えに
スズキとトヨタはこれまでもエンジン車で相互供給している実績があります。しかし、EVのOEMはエンジン車では比較にならないほど重い意味があります。トヨタもEVを開発していますが、レクサスブランドやスバルと共同開発している「bZ4X」など中大型車が主力になっています。EVはバッテリーなど高価な基幹部品を組み込むため、車両価格はどうしても高価格帯になってしまうため、高級車や大型車を意識してまず開発しています。
ところが、中国のBYDがテスラを吹き飛ばすほど巻き起こした旋風もあって、3万ドル以下の低価格帯のEVが世界市場で本格的に出回り始めます。小型で価格も安いEVを開発するノウハウは、トヨタよりもスズキが長けています。
スズキが2025年春から供給するインド製EVは、まず中国やテスラなどと対抗できる商品力が試されます。順調に滑り出せば、スズキとトヨタは新しい小型車を次々と投入するはずです。その頃にはダイハツの影はさらに薄くなっています。数年後にスズキとダイハツが一体化していてもおかしくありません。