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東芝・上場廃止 経営理念「人と、地球の、明日のために。」というけれど

 東芝が2023年12月20日、東京証券取引所の上場を廃止しました。「新しい株主の下、新たな未来に向かって大きな一歩を踏み出す」と決意を表明し、今後も経営理念「人と、地球の、明日のために。」の下で企業価値向上と社会貢献に努めると説明します。1949年以来74年間、日本を代表する上場企業として高い評価を集めてきただけにとても残念な結末ですが、経営破綻を切り抜けるために有望事業を切り売りした現在の東芝は今や、かつての栄光を失った抜け殻に映ります。今後に何を期待すれば良いのでしょうか。

栄光を失った抜け殻?

 発端は2015年に発覚した不正会計問題。儲かってもいないのに利益が出ていると操作する悪質なものです。しかも、不正を指示したのは歴代の社長経験者。2017年にはライバルの三菱重工業すら驚いた法外な価格で買収した米原発子会社はなんと経営破綻してしまい、債務超過に。窮地を切り抜けるために「物言う株主」と呼ばれる海外ファンド60社からの増資を受けました。その後の混乱は素人でも予想できます。60社のファンドが参集すれば、まとまるものも纏まりません。株主総会で提案した取締役の人事案や会社の再建案は否決され、本来なら最優先されなければいけない経営再建は置き去りとなりました。 

 東芝は、事実上経営破綻していたのでしょう。改めて経緯を振り返るだけで虚しさを覚えます。1990年代、東芝を担当記者として取材して以来、30年以上も経営を眺めてきましたが、2015年以降の混乱は目を覆いたくなる惨状でした。

将来を考えない経営者が破綻の道を描く

 当時の経営者を無能と悪態をつくつもりはありません。経営とは永続的なもので、突発的に変質するものではありません。経営の継続性の決め手はやはり社長人事。社長が自身の後任を選ぶ際、東芝の将来を真剣に考えている人物か、あるいは自身にお愛想を振り撒いているだけの人物かを見抜くかどうか。次期社長人事をしっかり考え、バトンタッチしていれば、東芝は今も輝いていたはずです。要は、耳障りの良いことをだけを話す後輩を選んだ結果が今の東芝の結末なのです。

 メインバンクなど、いわゆるステークホルダーにも疑問があります。個人株主はともかく、東芝の経営陣に影響を与える株主は何を静観していたのでしょう?。東芝を買収した国内投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)はロームやオリックスなどの企業や銀行と多数の企業連合を組み、総額2兆円規模を調達しました。海外の物言う株主らを排除し、日本勢で支援する体制を固めました。ただ、日本勢だからといって、東芝に好意的な振る舞いをするとは限りません。東芝の先行きが保証されているわけではありません。

 企業経営は昨日、今日、明日の連続で形作られるものです。経営者が代わったとしても、企業風土は変わりません。社長はよく船頭に例えられ、企業の舵取りの責任を期待されますが、「船頭多くして、船山に登る」、あるいは「呉越同舟」という諺が示す通り、船という大きな器は思った通りに操舵できるものではないのです。

船頭多くして船山登る

 すでに買収に参加した企業には、東芝支援よりも投資を優先する企業がいますし、半導体のロームや日本特殊陶業のように東芝との連携を重視する企業もあります。上場廃止後、東芝の再建シナリオがすんなりまとまり、進むと楽観視はできません。

当社グループは、新しい株主の下、新たな未来に向かって大きな一歩を踏み出すこ
とになりますが、今後も当社グループ経営理念「人と、地球の、明日のために。」のも
と、より一層の企業価値向上及び社会への貢献に努めてまいります。当社のステークホ
ルダーの皆様におかれましては、変わらぬご理解とご支援を賜りますよう、宜しくお願
い申し上げます。

 東芝は上場廃止にあたって、上記の経営理念を表明しました。引き続き、東芝を率いる島田太郎社長は、東芝の先進性と技術力の奥深さに再建の可能性に自信を見せています。

 東芝の歴史は、まさに島田社長の思いを裏付けています。パソコンといえばノート型を思いつきますが、東芝が開発した「ダイナブック」がその先駆です。その走りである日本語ワープロも東芝が初めて実用化。半導体のNAND型フラッシュメモリーはじめ、世界で初めて世に送り出した最先端の新製品はまだまだあります。研究者に資金と時間を与える「自由な空気」を守ってきた東芝だからこそ、生まれたものばかりです。

優れた研究開発力は蘇るのか

 しかし、もう過去の遺物です。成長分野と期待していた医療機器や半導体メモリー事業などを売却。上場廃止後に東芝の手にある事業は、上下水道や発電所関連などのインフラ、自動車や産業機器の製造に欠かせないパワー半導体、コンビニなどで使われるPOSシステムなど。

 東芝を買収したJIPは5年後をめどに再上場を考えているそうです。ファンドの立場から考えたら、当然です。上場益を手にしなければ、国の支援機関と同じになってしまいますから。買収に投じた2兆円のうち、銀行借り入れは1兆4000億円。結構、高い目標額です。

 事業そのものに将来性がないと考えているわけではありません。誤解しないでください。東芝の従業員のみなさんが支える研究・生産の現場に全く不安を感じていません。事業を成長力に育てる経営手腕に危うさ、あるいはその可能性がよくわかりません。この10年近い歳月を振り返ると、どうして東芝の経営陣に信頼を寄せることができるのでしょうか。

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