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東芝の非上場化、覚悟は民事再生法と同じ 問われ続ける「再建は誰のため」

 どうもすっきり受け止めることができません。東芝の非上場化です。自身のメンツと嫉妬から会社を経営破綻寸前にまで追い込んだ無責任な経営者、あるいは自力再建できる当てもないのに地位に固執する無力な経営者。東芝が非上場化に至るまでの道のりを振り返るだけで、虚しさを覚えます。結局は上場廃止を選びました。

目の前の障害を取り払っただけ?

 モノ言う株主から解放され、会社として存続できる道を探ることができると説明します。疑問が残ります。目の前の障害を取り払っただけではないのか。近い将来、再建を果たした東芝は誰にとって価値がある存在なのでしょうか。日本経済のため?株主のため?従業員のため?

 投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP)が東芝の株式公開買い付け(TOB)を8月中に開始する見込みだと発表しました。世界各国で進めている競争法や投資規制法関連の手続きが終わらず、予定していた7月中より遅れるそうです。東芝は3月、JIPから買収提案を受け入れており、TOBが予定通り成立すれば株式市場の上場は廃止されます。

 買収規模は2兆円程度。買収のスキームはJIPを主体に三井住友銀行、みずほ銀行、三井住友信託銀行など金融機関のほか、オリックス、スズキ、岩谷産業、半導体大手のローム、中部電力などが融資や出資などで参加する見通しです。3月時点では20社程度が参加するといわれていました。その後参加企業、融資や出資のスキームに修正が出ているようですが、詳細なスキームは新聞などによる続報にお任せします。

名門だから存続するわけではない

 東芝は日本を代表する企業です。創業者の田中久重は江戸時代から「からくり儀右衛門」と呼ばれる発明家で、彼の人生をドラマに仕立てたNHK番組「からくり儀右衛門」は中学生の頃、夢中になって視聴しました。新聞記者になってからも、企業取材すれば東芝の名前がたびたび出てきます。日本産業史に登場する名経営者を輩出しており、社長経験者は経団連会長など日本の経済界のトップも務めています。

 「良い会社」だったのでしょう。上場企業の経営者らに「自分の子供をどこに就職させたいか」と聞くと、かならず「東芝」の名前が出てくるほどでした。明治以来、日本の富国強兵、敗戦、高度成長の過程のなかで産業インフラ、家電など生活に必要な身の回り品をほとんどすべて生産していたのですから、日本の産業界でも別格の存在でした。

 だからといって、東芝の非上場化による経営再建に両手を挙げて賛成するわけではありません。名門企業だからと言う理由だけで存続する価値はありません。企業は何度も再生を重ねて時代の変化に合わせて進化する力も兼ね備えています。再生に失敗し、そのまま消え去ることもありますし、民事再生法など法的な措置を経て再生のチャンスを掴むこともあります。

再建は呉越同舟

 東芝の非上場化は、民事再生法と同じ措置と判断しても良いのではないでしょうか。2015年に発覚した巨額不正会計事件に端を発した経営破綻騒ぎは1500億円超の利益操作を指揮した事件の張本人が社長経験者だったこともあって、東芝の経営権は事実上放棄したかのような混乱が続いていました。その後、モノ言う株主も交えた経営再建の主導権争いが演じられましたが、いずれも東芝本体の経営は誰が指揮しているのか判明しないまま時間が過ぎただけ。会社の体を成していません。

 JIPを主体にしたTOBも、金融機関、多くの業種の企業が参加し、買収スキームは思わず寄り合い所帯、あるいは呉越同舟という言葉が浮かぶほど。東芝の事業領域が半導体、電力、産業インフラなどとても幅広いため、利害関係がある企業がなんとか救済したいという思いの結果ですが、幅広い事業をまとめ上げながら経営再建を成功させるためには強力なリーダーシップが欠かせません。多くの金融機関、企業が出資や融資の形で参加するため、利害調整はさらに難しくなります。

 にもかかわらず、多くの金融機関、企業が参加したのは、東芝の経営破綻を回避するためでした。裏返せば、債権放棄などを強いられる最悪の事態に追い込まれる前に、再建に向けた保証金を支払う格好です。民事再生法などで会社倒産した場合、債権放棄などを強いられてますが、法的措置の前なら資金的な自由度が高いうえ、万が一倒産した場合に直面する事業への悪影響なども事前に対応できるわけです。

企業価値ゼロからスタート

 東芝はTOB完了後、背水の陣どころか、企業価値ゼロからスタートです。その覚悟がなければ再建は覚束ないでしょう。しかし、まだ疑問は続きます。再建完了後に上場を果たした時、喜ぶのは誰でしょうか。

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