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東芝

残念な会社「東芝」 GEも選択と集中に失敗したけど、経営の意思が欲しい

登っても登ってもふりだしに戻るカエルがいるそうです。

南米のギアナ高地に生息する体長4センチのコイシガエルは、エサを探して崖を上がっていく途中、天敵のタランチュラに出会うと手足を丸めてしまうので崖から転落してしまうそうです。命を落とすことはないそうですが、タランチュラに会うとやはり転落してしまい、ふりだしに戻ってしまいます。児童書として高い人気を集めている「ざんねんないきもの事典 おもしろい!進化のふしぎ 続」(高橋書店、監修今泉忠明)を見ていたら、こんな「残念な生き物」を知りました。

瞬間💡、「東芝」が浮かびました。2021年11月12日に中期計画を発表する予定ですが、その骨子はグループ全体を「インフラ」「デバイス」「半導体メモリー」の3事業を分社した後、それぞれが上場する計画だそうです。東芝はもう10年以上、経営危機が続いています。いつから始まったのか振り返るのがうんざりするほどです。経営危機の発端は社長と務めた西田、佐々木、田中3氏の相克を軸に悪化し始めており、ここ数年は東芝には最高経営責任者が不在な状態が続いているかのように映ります。

経営再建に向けて全事業の中でも最も将来性が見込める「医療機」をキヤノンに売却したほか、債務超過を回避するために東芝本体の大黒柱の半導体メモリーを分社化したと思ったら、完全子会社として買い戻したり。まるで落語に登場する主人公が追われる借金を払うために嫁さんの花嫁道具を持って近所の質屋に駆け込んでいる姿と同じです。少し余裕ができたから花嫁道具ぐらいは娘の将来を考えて買い戻した。これが半導体メモリーの完全子会社としての復帰の内情ですか。そしてお約束通り、当の本人はこんな借金まみれになったのは「俺のせいじゃない。他人のあいつのせいだ。信じた自分がバカだった」と思い込んでいる。東芝の歴代社長が功名に走って積み上がった「負の遺産」を背負う自分は不幸な役回りと信じ込んでいる。

2021年に入ると、経営再建の歯車は逆回転しています。4月には車谷暢昭社長が以前の職場である海外大手ファンドからの買収提案を巡って急遽辞任。6月末の株主総会では取締役会議長の永山治氏に対し再任否決の票が56%も投じられ、辞任する結末に。残された綱川智社長は「次の世代に引き継ぐ」と明言してすぐに退く考えを示しています。しかも、社長候補の選定は経営コンサルタントの会社に委託しているそうです。これじゃ落語のオチすら見つけようがありません。この状態で新社長が就任しても経営の行方はますます不透明になる繰り返しとなるのは誰の目から見てもわかります。

そこに浮上したのが東芝の3事業分割案です。まるで1人の社長ではまとめきれないし、内部抗争を解消できない。それでは事業を3分割してリスクを分散しよう。これが中期計画の内実だったら、かなり残念です。インフラ、デバイス、半導体メモリーを事業分割すれば性格が異なる事業との仕分けができ、収益管理上最適との判断らしいですが、東芝全体の時価総額を高めたい大株主であるファンドの思惑も交じっているはずです。

ライバルのGEも選択と集中に迷う時も

偶然なのでしょうが、東芝のかつてのライバルでありパートナーでもあった米国のGEが事業分割案を発表しました。航空、ヘルスケア、エネルギーの3分野を会社として設立し、上場させる方針だそうです。確かに航空エンジンはじめ世界的にも強い事業分野を持っていますので、この発表でGEの株価は上昇しているそうです。GEはかつてジャック・ウェルチが率いている時代がエクセレントカンパニーの象徴でした。製造業が母体であるにもかかわらず、金融、放送など非製造業を収益の柱に育て、大企業の進化モデルともてはやされました。当時、ウェルチが連呼した「選択と集中」は日本の経営者の間で流行語になったほどです。しかし、その後、後任のジェフ・イメルトの時代に入ってからは坂道を転げ落ちるように経営不振が続き、ジョン・フラナリーの代に移ってから新たな選択と集中を始め、それが今回の3事業分割計画となって現れました。

経営の意思が見えない

東芝が残念なのは、経営の意思が見えないことです。経営する当事者は誰なのでしょうか。いまさらですが、日本経済の戦後を支えてきた総合電機御三家と言われた東芝です。石坂泰三、土光敏夫はじめ日本の経営史に残る人物が社長を務めています。私も僭越ながら、佐波正一、渡里杉一郎、青井舒一の3社長経験者を取材する機会がありました。佐波さんはすでにかなりの年齢でしたが、欧州出張を0泊2日でこなすんだと気さくに話してくれましたし、青井さんは後任の社長取材の際、「俺が話すわけないだろう」とごつい顔をさらにしかめながら次は佐藤文夫さんだと声と顔で教えてくれました。思い出深いのはやはり渡里さんです。社長の在任期間は東芝機械ココム不正事件の責任を取って1年余りとわずかでしたが、東芝の将来に対する思いを丁寧に語っていただき、その姿から「経営者としてのけじめの大事さ」を教えてもらいました。東芝にはまだまだ傑出した人材が残っているはずです。

自らの将来は東芝が決めて欲しい

その東芝が自らの将来を決められない。残念です。あの総合電機の御三家がなって感傷は全くありません。新聞記者の頃に参加した連載企画「会社は誰のものか」を改めて問いたいです。会社は経営幹部と株主だけのものではありません。東芝が生み出す製品やサービスで救われる人々がたくさんいるのですから。

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