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トヨタ、車載電池へ1.5兆円、日本と欧米のEVデファクト争い ボルテージ上がる

 トヨタ自動車が2021年9月7日、「電池・カーボンニュートラルに関する説明会」を開き、自動車用電池の開発・生産に1.5兆円を投資するとともに、2030年まではハイブリッド車を主力にしながら電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)の普及を急ぐ考えを示しました。

 2日後の9日、日本自動車工業会の会長会見でトヨタ社長の豊田章男会長は「カーボンニュートラルは雇用問題であることを忘れてはいけない」「一部の政治家からは全てEVにすればよいとか製造業は時代遅れだという声を聞くが違う」と強調し、日本の自動車産業はハイブリッド車からEVへの漸進的な移行が望ましいとの考えを示しました。

 二つの記者会見の焦点が交わるのは、はるか遠いドイツで7日開幕したミュンヘン・モーターショー。EV時代の到来を告げる新しいモデル車と技術が展示され、「100年に一度」といわれるカーボンニュートラルを掲げた産業革命が欧米主導型で進められいるかのような演出です。内燃機関エンジン時代で世界一の覇権を取ったトヨタ自動車。次世代自動車でもデファクト・スタンダード(事実上の業界標準)を握り続けるためにも、ハイブリッド車をそう簡単に手放すわけにはいきません

 ハイブリッド車はEVの普及を先取りする形でCO2節減に貢献しているという前提に立って、トヨタは2030年までにEVの命ともいえる電池の耐久性などの研究開発と増産に向けて1兆5千億円を投じる計画で、このうち1兆円は工場ラインの増加に回るそうです。トヨタの年間設備投資はその時々で増減がありますが、2018年3月期で1兆3000億円を計上するなど年間1兆円程度とみて良いかと思います。ですから今回の計画は2030年まで残り9年間と見ると、かなりザックリした試算ですが年間1500億円程度のペースで電池関連に投資する水準となります。

 トヨタにとってEVは直近の開発テーマとしては最重要です。年間1000〜2000億円の設備投資は驚きはないですし、むしろちょっと少ないんじゃない?という疑問すら生まれます。ちなみに過去最高は2006年3月期の1兆5288億円です。

 電池の開発計画の説明では初代プリウスで採用したニッケル水素電池、リチウムイオン電池、全個体電池などを例に挙げてそれぞれの長所、短所を説明しましたが、詳しくはトヨタの公式ホームページに譲ります。

 説明会で興味深かったのは世界の自動車市場を「ハイブリッド車が適している地域」「EVが適している地域」と分けて開発・販売する考え方を披露したところです。EVは内燃機関のエンジン車に比べてCO2の排出量を相対的に抑える効果がありますが、EVが何百〜何千万台の規模に膨れ上がった場合、必要な電力量を供給できるインフラが整うのかという大問題が控えています。

 電力は供給と需要をピタリと合わせていないと電圧が維持できず使い物になりません。多数のEVが瞬間充電しようとすると、その瞬間供給力を維持する予備発電力としてCO2排出が少ない原子力発電所をかなり多数増設しなければいけないという予測があるほどです。

 トヨタは説明会で「再生エネルギーの供給力が増えている地域はEVでも良いが、まだ十分でない地域はハイブリッド車が適している」と解説していました。再生エネルギーのインフラ投資が加速している欧州はEVが走れる基盤が整い始めています。しかし、日本もそうですが再生エネルギーの供給力が不足で原発や石炭火力に頼っている中国やインドなどではEV普及を声高に唱えていますが、現実問題としてEVへの電力供給するためにはCO2を排出する火力を増やすことになりかねないのです。世界全体のCO2排出量抑制を考えたら、ハイブリッド車はまだまだ延命しなければいけません。

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