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トヨタ会長の信任急落 問われる「豊田」を捨てる勇気、トヨタを創る努力

「わかっちゃいるけど、やめられねぇ」

「ア、ホレ、スイスイ、スーダラッタ、スラススイスイ」

 植木等さんの「スーダラ節」を思い出しちゃいました。社内全員はもちろん、治療しなければいけない病巣が何かがわかっているのに、本人だけが気づいていない。周囲が手直しを欲しても、本人はその空気も読めない。現場は悲しい現実に嘆いていますが、本人は苦笑しているだけではないでしょうか。これを悲喜劇と呼ぶのでしょうが、日本を代表する企業の一大事です。笑い話で終わらせるわけにはいきません。

信任率は2年で23ポイント低下

 トヨタ自動車の株主総会で取締役に再任された豊田章男会長の「信任率」が急落しました。71・93%。前年の株主総会時に比べて12・6も急落しました。2022年6月の株主総会から見れば23ポイント以上も落ち込んでいます。最近ではキヤノンの御手洗冨士夫会長が過半ギリギリまで低下したのが驚きでしたが、2年連続で低下する例は滅多にありません。

 理由は明快です。トヨタの経営に対する疑心、言い換えればガバナンスに対する不信任です。決算は絶好調。5月に発表した2024年3月期決算は、ハイブリッド車人気に支えられ、営業利益は5兆円を超えました。にもかかわらず、トヨタのトップ、豊田会長への不信はなぜ募るのか。日野自動車、ダイハツ工業や豊田自動織機などグループ各社で相次ぐ不正認証の広がりが主因ですが、その不正に対する認識、経営手腕があまりにも的を外し、不信よりも不安が広がっているのです。

 豊田会長の信任率は際立っています。取締役10人のうち8人は90%を超え、割り込んでいるのは2人だけ。豊田会長の71・93%、早川茂副会長の89・53%。早川氏は豊田会長の片腕で、トヨタの対外的な交渉、広報宣伝を仕切る人物です。株主は豊田会長の奔放な言動に歯止めをかけるどころか、場違いな発言を許し、トヨタのガバナンス不信に拍車をかけていると見ているのです。

米助言会社や機関投資家なども反対

 トヨタ経営陣に対する厳しい視線は2023年から高まっていました。2023年の株主総会では米議決権行使助言会社グラスルイスが取締役会の独立性を保持していないと判断、豊田会長の再任反対を推奨。米国最大の公的年金基金「カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)」などが反対票を投じました。

 2024年は、グラスルイス、ISSの2社が5月にグループで相次ぐ不正を理由に豊田会長の再任反対を推奨。「トヨタグループ全体で問題が多発していることを考えると、豊田氏のリーダーシップのもとで培われた企業文化に疑問が生じる」とグラスルイスは反対理由を明らかにしています。

「今も責任者」「航海をリードしたい」と豊田会長

 6月18日に愛知県豊田市で開催した株主総会では、佐藤恒治社長が「心からおわびする」と不正について謝罪。企業ガバナンスについて問われた豊田会長は「今もトヨタ及びグループの責任者は私だと思っている。私が考えるガバナンスは1人1人が考え、動くことができる現場をつくること。グループの航海をリードするので、執行メンバーとともに全員でやってますので、新しいトヨタの応援をよろしくお願いします」などと述べました。

 ガバナンスに対する反省が感じられません。「私が考えるガバナンスは1人1人が考え、動くことができる現場をつくること」と述べていますが、機能しなくなった理由は豊田会長が起因であることを理解していないようです。なにしろ国内外から自身のガバナンスに不信をつけられたもかかわらず、「今もトヨタ及びグループの責任者は私だと思っている」とピントのズレた答に驚くしかありません。「応援よろしく」との締めには唖然とします。

結局、ガバナンスは変わらない

 今後の経営は変わるのでしょうか。答はNO。海外の株主らが最も重視する経営の中立性を監視する社外監査役の人事を見てください。中日新聞社でトヨタの取材を担当した元編集委員の長田弘己氏を社外監査役に選任しています。中日新聞は愛知県を中心に東京、北陸のブロック紙を発行しており、販売、広告など営業面でトヨタグループが大きな影響力を持っています。編集と営業は厳しい線引きをしているとはいえ、中日新聞社とトヨタは利害関係ゼロではありません。馴れ合いなど決して無いと推察しますが、社外監査役として適任でしょうか。

 株主が抱く不信を一掃し、今後も強いトヨタを目指すのか。現経営陣にそんな覚悟は見当たりません。「自分の目が黒いうちに章男を社長に」。章男氏の父親で元会長の豊田章一郎氏は、当時実権を握っていた奥田碩氏に頼んだそうです。その一言があったからかどうかはわかりませんが、2009年に章男社長が誕生しました。もう15年目を迎えます。

 もう「豊田」は十分でしょう。このままならトヨタのガバナンスは不信の渦がさらに広がり、トヨタグループで遠心力が働き、バラバラになっていきます。創業家の看板にこだわり続ける「豊田」を捨て、新たに「トヨタ」を創り出す覚悟が今、問われています。

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