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米EV支援策を廃棄 日本車に追い風 EVへダッシュする時間稼ぎ

 トランプ米大統領は9月末に電気自動車(EV)の購入支援策を打ち切ります。世界最大の自動車市場である中国がEVへシフトしている最中に、中国に次ぐ第2位の米国がEVにブレーキをかけます。

 日本車の視点から言えば、これって、チャンスじゃないですか。出遅れたEVで時間稼ぎができますし、販売が絶好調のハイブリッド車が一気に加速するのは確実。トランプ関税で逆風をまともに受ける日本車にとって、多少なりとも追い風に風向きが変わります。日本車だけ不幸になる悪い話が見当たりません。

トランプ関税の逆風下、チャンス

 米政府のEV購入支援策をざっとおさらいします。1台あたり最大7500ドルの税控除を与える内容で、1ドル145円で換算したら100万円超。米国でEVの新車は平均5万7700ドル。ガソリン車が4万8100ドルで、EVは9000ドル程度割高ですから最大7500ドルの税控除が消えればEVを購入する意欲は消えます。

 ただでさえEVの購入層は富裕層を中心に一巡したといわれ、これから新規に購入する層は地球環境や温暖化に関心が高い中間所得層。米国の所得や物価は日本に比べかなり高いですから、100万円ぐらいと思う声もありそうですが、EVの販売店を前に一瞬立ちすくむはずです。

 日本車メーカーはどう向き合うのか。トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、スバルなどは米国向けのEVを開発し、米国での現地生産を進めています。ただ、ここ一年で経営環境は大きく変わりました。トランプ関税によって日本などからの輸入車は25%関税を上乗せされるるほか、今回のEV購入支援策の打ち切りが加わるため、販売戦略の見直しを迫られています。売れ筋をどう組み替えるのか、そして現地生産をどう拡大するのか。大きく様変わりするでしょう。

日本車にデメリットはある?

 何を暢気な見方と笑うでしょうが、日本車にとってデメリットは少ないはずです。まず販売車種はハイブリッド車に集中しましょう。2020年代に入ってEVは米国でもかなり普及しましたが、それでも新車販売の1割未満にすぎません。圧倒的な人気はエンジン車の使い勝手をそのまま活かして高燃費を実現するハイブリッド車が占めています。トヨタやホンダが好業績を達成し、日産が大赤字に転落した背景には、一番人気のハイブリッド車の品揃えの良し悪しがありました。

 トヨタ、ホンダはハイブリッド車をてこにトランプ関税で割高になる日本からの輸入車落ち込み分を補います。現地生産をフル操業状態にまで引き上げますから、米国事業の収益が大きく低迷する恐れは消えます。2026年3月期決算は見かけ上、トランプ関税の悪影響を演出するために数字はそれなりに低迷するでしょうが、もともと想定外の事態に備えて米国の生産・販売体制は作り込んでいますから、トランプ関税で米国経済が悪化しない限り、デメリットを飲み込む余力はあります。

 EVの開発・販売にもメリットがあります。日本車メーカーは、2026年をめどに本格化する計画を進めています。EVの開発を終え、生産体制を整えて販売に向けて最終仕上げする段階です。その矢先にEV購入支援策の打ち切りは痛いと言えば痛いですが、痛いのは日本車だけではありません。米国、欧州など全てのメーカーにとって不幸です。

状況変化に合わせて巻き返しへ

 テスラはじめGM、フォードや欧州車の背中を見ながら巻き返している日本車メーカーにとって、米国市場でEVが足踏みするのは時間稼ぎになります。

 これから米国市場はトランプ関税の荒波に洗われ、当分混乱が続きます。花火のように打ち上げた政策もトランプ大統領の気分次第でどんどん修正されるでしょう。ひょっとしたら新たなEV購入支援策が登場するかもしれません。あせることはありません。日本車メーカーがEV戦略をゆっくり練り上げる時間はたっぷりあります。どう見ても悪い話ではありません。

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