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VW 独の工場閉鎖を検討 EVはスケープゴート 主因は中国への過度な依存

 独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が独国内工場の閉鎖を検討しています。同社は1937年の創業以来、初めてという国内工場閉鎖の検討に追い込んだ引き金を中国の電気自動車(EV)と説明します。割安な価格で欧州はじめ世界のEV市場を席巻しており、大胆な経営合理化が避けられないと続けます。

独国内の工場閉鎖は創業以来初めて

 果たしてそうでしょうか。VWの窮地を冷静に眺めると、EVの優勝劣敗よりも中国市場への過度な依存が事業基盤を崩し始めていると考えるのが妥当です。中国政府は世界市場を制覇してきた欧米や日本の自動車メーカーをふるい落とすため、中国メーカーに対しEVへ急転換するよう後押ししています。世界販売の3割も中国に依存するVWは、中国の思惑通り窮地に追い込まれたのです。

 VWは9月、ドイツ・ウォルフスブルクの本社で従業員を前に経営改革計画を伝えました。国内工場の閉鎖も含むコスト削減計画に対し、参加した2万5000人の従業員からブーイングが鳴り響きました。閉鎖の候補は車の組み立て、部品工場それぞれ1か所です。経営側は、欧州市場はコロナ禍前の需要にまで戻っておらず、低価格攻勢をかける中国製EVに対抗するためにに割高な人件費で生産する独国内の体制を合理化しなければいけないと説明しました。独の2工場分の生産に相当する50万台が過剰と試算します。

欧州市場は好調、不振は唯一中国だけ

 欧州市場はVWの説明の通り、厳しいのでしょうか。2023年の世界販売は前年比11・8%増の924万台。地元の欧州市場は19・7%増の377万台と大幅に伸び、注力するEVも34・2%増の47万台。北米、中東アフリカも好調に推移しており、コロナ禍後は陰りどころか、しっかり回復しています。

 唯一、不振だったのが中国。1・6%増の323万台と微増にとどまっています。中国政府が推奨するEVは23・2%増の19万台となっていますが、欧州と並んで販売全体の3割以上を占める中国の不振はVWにとっては悪い予兆でした。販売台数全体は前年を上回っていますが、中国製EVとの価格競争はエンジン車も巻き込んで激化しています。VWの販売台数はEVも伸びているとはいえ、価格が段違いの中国製EVに打ち勝つため、利益を度外視した受注も多いはずです。三菱自動車が現地生産から撤退するなど日本車の苦戦ぶりを念頭に考えれば、VWもかなりの消耗戦を強いられています。

 自動車販売は2024年に入っても順調です。欧州の1ー7月の新車販売は653万台を超え、前年同期に比べ4%近く増加。ただ、ヒットしているのはハイブリッド車。EVは81万台と0・4%減と落ち込んており、国別ではドイツが20%も減少しています。2023年12月に政府がEVの助成金を廃止した影響をもろに受けています。

VWの中国は全体の3割以上

 VWは、合計すれば新車販売全体の7割を占める欧州と中国で苦境に喘いでるのですから、聖域ともいえる独国内工場の閉鎖を口にせざるをえなかったのでしょう。

 確かにBYDなど中国製EVが世界で演じる低価格競争は、たいへんな破壊力を見せつけています。破竹の勢いだったEV最大手の米テスラがBYDに追い上げられ、業績が右往左往する様を思い出せばわかります。価格破壊の原動力は中国政府の支援です。中国メーカーは、需給見通しを無視したかのようにEVの部品を大量に生産し、コストを抑えたEVを中国国内のみならず海外に輸出しています。

 中国市場ではすでに日本車は駆逐寸前。三菱自動車は現地生産からの撤退を表明しています。欧州もEUが欧州企業に損害を与える恐れがあるとして2024年7月から中国製EVに対して暫定的な追加関税を発動しました。

 世界戦略を巧みに展開してきたVWはEVでも早めに手を打ってきています。2015年にディーゼル車の排ガスをめぐる不正が発覚し、VWの技術力に対する疑問を解消するためにもEVを強化。2030年までに欧州で販売する車の7割をEVにする計画を発表したほどです。もっとも、期待通りに進んではいません。2024年1ー6月の世界のEVの販売台数は32万台弱で、前年同期で1・4%減少しています。

1984年以来、中国の自動車を支えてきたVW

 しかし、独国内の工場閉鎖を検討せざるを得ない窮地に追い込んだのは過度な中国依存です。EVを主犯とするのは目先の販売不振を利用した詭弁であって、いわばスケープゴートにすぎません。VWの中国との深い関係を考えれば、中国市場を悪役にはできなかったと推察します。

 VWは1984年から上海で現地生産を開始しました。当時の中国にとっては高級乗用車に相当する「サンタナ」を僅かな台数ですが、組み立てていました。日本車メーカーはまだ中国での現地生産を検討すらしていない時期です。日本車メーカーの海外担当者から「VWは小さな生産ラインを作り、サンタナの車台を手動で動かし、1台の車に組み立てていた」と教えてくれたことがあります。

 世界の自動車メーカーに先駆けて中国市場を制覇しただけに、VW、アウディなどの売り上げは群を抜いていました。40年間に及ぶ歴史は、中国、ドイツ両国関係にも影響し、ドイツ経済の中国依存度を高めてきました。当然ながら、VWは恩恵を受けており、中国の自動車産業もドイツに助けられ、育ったのです。VWをトヨタ自動車と並ぶ世界トップクラスの地位に押し上げたのも、中国が米国を抜き世界最大の自動車市場にまで拡大したことが原動力です。

 その過度な中国依存がが今、逆回転し始めています。政府の支援を受けた中国製EVのコスト競争力を考慮すれば、ドイツの工場が太刀打ちできるわけがありません。EV、エンジン車問わず、VWは互いに利益を享受した中国から創業以来初めての経営の苦境に直面する大きな圧力を受けています。VWはこの40年間をなんと表現するのでしょうか。

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