ルールは誰が決める?ルマンで6連覇を逃したトヨタ、株主総会でいつまで連覇できるか
世界で最も有名なフランスの耐久レース「ルマン24時間」が6月11日にゴールを迎え、フェラーリが50年ぶりに優勝しました。6連覇を狙ったトヨタ自動車は2位に。創設から100周年を迎えたルマンには、最上級クラスにしばらく撤退していたフェラーリやポルシェなどが参戦したため、有力なライバルがいない中で5連覇したトヨタの実力が注目されていました。
ルマン開幕直前にルール変更
不運だったのは、開幕直前にレースカーの競争力均等化を名目に「性能調整」というハンディがトヨタに課せられたこと。レース前から苦戦が予想されていました。ルマンのみならずF1(フォーミューラーワン)やスキー競技などで欧州勢?に有利なルール変更が突然、課せられることがあります。
トヨタの豊田章男会長は予想もしない突然の「性能調整」について自社メディア「トヨタイムズ」で「そこまでして他のチームを勝たせたいのか?と思ってしまった」と胸の内を明らかにしたそうですが、肯けます。トヨタイムズをご覧ください。レースの話題が満載。豊田会長は相当悔しかったでしょう。しかし、世界のルールは日本の思い通りにできないのも事実です。
ルマンから3日後の14日に開催したトヨタの株主総会でも、議長を務めた豊田章男会長は同じ苦々しい思いを抱いたのでしょうか。
苦々しい思いは株主総会でも?
今年のトヨタの株主総会は海外の機関投資家からも注目されていました。まず取締役選任の議案。米議決権行使助言会社のグラスルイスは豊田会長の再任に「反対」を推奨しました。米国最大級の機関投資家のカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)も反対票を投じることを明らかにしていました。オランダなどの機関投資家からは株主提案がありました。トヨタがCO2などの排出削減に貢献しているかなどを報告する条項を定款に追加するよう求めていました。
株主総会に出席していませんので仔細な発言はわかりませんが、豊田章男会長、佐藤恒治社長ら10人の取締役選任などは可決され、気候変動に関する株主提案は否決されました。
トヨタ会長ら取締役選任は可決、株主提案は否決
結果に驚きはありません。豊田会長はトヨタのみならず日本の産業界に強い影響力を持つ人物です。カルパースは世界企業に出資する株主として積極的に意見を開示しており、その意見は一般株主へ影響を与え、投資先の企業を経営改革に向けて背中を押す力を持っています。グラスルイスの反対推奨もありましたが、一般株主から多数を占めるほどの反対を集めきれないのは誰でも推測できました。
株主提案についても、メディアによるとトヨタは「個別の業務執行に関しては取締役会で経営判断を進めるのが適切と考えた」と反対意見を表明、否決が多数を占めました。佐藤恒治社長は質疑応答で「車をとりまく世界は大きく変化している。未来の車に新しい何かを生み出すのが我々の使命だ」と話したそうです。
トヨタのルールが世界で通用しない時が
今回のトヨタの株主総会は、これまで当然と考えられたトヨタのルールが通用しない時代が訪れるかもしれないことを教えてくれます。創業家とはいえ、株式の数%しか保有しない豊田家出身者の豊田会長が佐藤社長ら取締役を選任するほか、社外取締役にトヨタと深い関係がある三井住友銀行出身者が就任します。選任の過程はこれまでなら異論を挟む余地すらなかったはずです。しかし、もう通用しません。時価総額30兆円を超え、日本を代表する企業が中立公正に経営されているかどうか。より強く、しかも国内外から注視されるのは当然です。
しかも、自動車メーカーは地球環境問題に対応するため、電気自動車(EV)などカーボンニュートラルに向けた変革が急務です。「100年に一度の変革期」と豊田会長は繰り返し強調しますが、トヨタはハイブリッド車など内燃機関エンジン車に固執し、EVへの取り組みが遅いという批判を浴びています。トヨタが株主総会直前にEV戦略を派手に公表しているのも、その批判を意識してのことでしょう。
株主総会はルマンと違って、トヨタのルールで仕切ることができます。でも、トヨタは世界一の自動車メーカーです。グラスルイスやカルパースの「反対」、さらにより踏み込んだ気候変動対策の要請は世界から引き続き、しかも強まるのは確実と考えるのが普通です。
2023年は未来への警鐘に
幸か不幸か、世界企業となったトヨタ。自社のルールよりも世界のルールを優先、あるいは縛られることが増えるのは間違いありません。ルマンは来年、再び勝利をめざし実現することができます。しかし、経営は大きな道筋から逸れると、元に戻るのがたいへん。企業の命取りにもなりかねません。2023年の株主総会は、トヨタにとって未来への警鐘となったのではないでしょうか。