狸小路

札幌・狸小路は化け通せるか インバウンドが商店街から市民を引き離す遠心力に

 札幌市の代表的な商店街・狸小路。有名な歓楽街ススキノに近いこともあって、札幌市民はもちろん、国内外の観光客が必ずと言って良いほど立ち寄る商店街です。1年ぶりに訪れたら、驚きました。商店街の主役が札幌市民から海外の観光客へ変貌していたからです。店揃えは激変。中国人観光客らに大人気のドラッグストアが一段と増え、ドン・キホーテも店舗の規模を大中小に分けてあちこちに。外国人の大行列はラーメン店よりもスープカレー店に。

ラーメン店が”廃業”

 衝撃的な張り出しを見つけました。

一徹は、ラーメンを止めました。今まで本当に、ありがとうございました。一徹

 一徹は狸小路の西側にあるラーメン店。店主がラーメン以外にもユニークな料理を提供するので、人気番組「吉田類の居酒屋放浪記」に登場したことがあります。最近は併設するジンギスカン店「アルコ」が人気を集めているようで、これまで何度も飲食したお店です。

 今回もおいしいジンギスカンを食べたいと思い、1ヶ月前に予約して訪れました。お店ののれんは「一徹」のままでしたが、店内はジンギスカンの「アルコ」が主になっている印象でした。店員さんはジンギスカンの配膳や予約の電話に追われ、海外からのグループ客が来店して店のドアを開くと「予約でいっぱいですって、誰か英語で伝えて」の声が響きます。

 店内の忙しさをみると、一徹がラーメン店を廃業するのも頷けます。3、4人のグループでジンギスカンとお酒を飲食すると、支払い金額は1万円を超えます。売り上げや粗利益を考えたら、ラーメン店を廃業してジンギスカンに専念する気持ちは十分にわかります。

 商店街はお客さんの変化に合わせて変わりますから、お店の新陳代謝は当たり前です。狸小路は明治4年(1871年)に政府が開拓使の本庁を設置してからお店が並び始めたそうですから、その歴史は150年を超えます。当初は今でいう風俗店もあったそうですが、札幌市民の生活を支える商店が占め、発展してきました。現金つかみ取りなど全国でも話題になるキャンペーンを仕掛けるなど「狸小路といえば札幌」のイメージを定着させました。

150年超の歴史は地域と共に進化

 この10年に限っても、街並みはまだ札幌市民の空気感が漂っていました。ラジコンやプラ模型で全国に知られたタバコ用品などを販売する老舗が構えていましたし、アイヌの人が経営する工芸品店もありました。北海道各地から産地直送で野菜、魚介類、肉を集めた「安くて美味しい市場」もありました。その横には厚岸の牡蠣、美味しい卵ご飯など地産地消に努める屋台のような店が並び、まだ北海道の空気が漂っていました。

 しかし、インバウンドブームの衝撃は強烈でした。ドラッグストアの前は海外観光客が大量に購入した商品を詰め込んだ段ボールがずらりと並びます。コロナ禍で沈静化しましたが、今では段ボール買いの衝撃にぶちのめされたかのように狸小路は多くのドラッグストアが所狭しと連なっています。スープカレーなどレストラン情報を拡散するSNSを頼りに新しい行列が増えていました。この衝撃で店の転廃業は一段と加速しており、その跡地や空き地に新しいホテルがどんどん開業しています。

 札幌市の地元の人たちが利用するお店がどんどん少なくなっているのではないでしょうか。古くからある居酒屋やラーメン店に外国人観光客はあまり立ち寄りませんが、地元のお客さんの足が遠のいてしまったら、お店は持ちません。新陳代謝と呼ぶ転廃業がさらに加速してしまいます。

 ほっとしたのは商店街の外れに灯りが戻ったことです。無線電機のお店の看板がリニューアルしていました。もう10年以上も薄暗い「東芝半導体」が掲げられ、まるで東芝の経営危機を予感したかのように映っていました。ところが、とても明るい看板に取り替えられ、「東芝半導体」「三菱半導体」の先行きに希望が持てる気持ちになりました。これもインバウンドの恩恵、波及効果と勝手に理解しています。

東芝

Before

 

  日本経済にとって訪日客の活況はとても重要です。2024年は3700万人近くも訪れ、消費額は8兆円を超えています。今や世界でも人気の北海道の観光産業をより大きくするパワーとなっています。しかし、オーバーツーリズムの負の部分は見逃せません。北海道北部の美瑛町はその美しい畑の風景がとても有名ですが、北海道を代表する観光スポット「セブンスターの木」近くにあった約40本のシラカバ並木を伐採しました。並木を含めた周辺の写真撮影に訪れる観光客らが農地に立ち入るほか、交通渋滞を招き、地域に与える悪影響を無視できなくなったからです。

オーバーツーリズムをどう克服するか

 狸小路が北海道最大の商店街としてどう生き続けるのか。言い換えれば、これからどう化けていくのか。タヌキだからといって煙でうまく切り抜ける魔法はありません。オーバーツーリズムをどう克服するかのモデル商店街になって欲しいです。

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