会員制農園、東京近郊でブーム、野菜にたくさん教えてもらえますよ(その1)
4坪の畑でも汗だくだくの農作業に
花や木を育てる時も天気予報に目配りはします。東北の実家に帰った時など長期にわたって家を離れる際に心配するのは、プランターなどに植えた花や木の水やりですから。種まき、肥料や剪定など花が咲くまでの手順は楽しいのですが、プランターの栽培でも結構な労力を費やします。
私の場合、貸し農園の畑は4坪の広さです。畑でパッと見ると「こんなもんかな」と感じますが、実際の作業になると広い!、広い!種を蒔く時に4坪の広さを改めて実感します。5月、6月に種まきや苗植えの作業をすると、汗だくだくです。水やりなど多くの作業の積み重ねがあって、ようやく野菜を食べることができるのです。改めてプロ農家の仕事の凄さを思い知らされます。
東京都の「セミナー農園」は、貸し農園とはちょっと違うようです。都内の農地を維持するとともに、高齢者の活用という目的で「シニア農園」と「こども農園」の向けが設定されています。シニア向けは50歳以上が対象で、広さは20平方メートル。年間の農園利用料は五万五千円。
さすが東京都の事業だけに民間の貸し農園に比べると割安ですが、かなり広いです。利用料には農機具使用料が含まれているので、トラクターなどの機械を使わないと片手間ではできない広さです。個人の趣味というよりは、プロ意識に近い覚悟を持って農業に従事する人材育成を考えているようです。アマチュア農家の裾野が広がっていくのでしょう。
小規模とはいえ野菜栽培を始めて最初に感動するのは、野菜の生長力です。晴天、曇天、雨天、強風、台風、時には霜や雪も。天候は千差万別です。しかし、植物はどんな組み合わせの天候でも現実をしっかりと受け止め、芽として地上に現れて空に向かって伸びていきます。
きゅうりやインゲンなどは日曜日に芽が出たかなと思っていたら、翌週の日曜日に畑を入るとしっかりした体幹を感じるほどスッと立っています。1ヶ月も経たないうちに一丁前の姿になって実を増やしてきます。
単身赴任していた時、自宅に戻った際に会う子供の体格や顔つきの変化に驚くのと似ています。先日、近所の貸し農園のそばを通ったら、ご夫婦が畑のフェンス越しに覗き込んで「ほら、向こうから二番目の場所だよ。思ったよりも生長しているだろう」と冬野菜の白菜の大きさを楽しそうに確認していました。野菜を育てていると、手間をかけた分だけしっかりと育ってくれます。
「練習は嘘つかない」とよく言われますが、「野菜も嘘つかない」といつも思います。
もっとも生長力に脅かされる思いを持つ時があります。収穫期に入るとどんどん実がなり、もう止まらない。週末にしか畑に行けませんから、ほぼ1週間分の野菜を収穫して食べる繰り返しとなります。夏ならトマトやインゲン、ナスはかなりの量が実ります。家族の人数にもよりますが、毎日、食べないと収穫した野菜が減ったと実感できなくなります。
畑を始めた頃は「野菜を食べるぞ」と意気込むのですが、野菜収穫のピーク時には「野菜に食べられている」と思うほど「おいしいのだから、食べてよ」と追い立てられている心境になります。
野菜を食べるよりも、食べられている感覚も
しかし、追い立てられるように食べていると、野菜の味というか、舌の鋭敏さが磨かれている感触を覚えます。同じキュウリを食べても、収穫した際に表面のとげに刺されたような痛さを忘れない間にサラダなどで食べると本当に感動します。
北海道の札幌で単身赴任していた時、近所に畑から直送した野菜を売るお店がありました。何も手を加えないで、そのまま食べてもおいしいことを知りました。一度、ゴボウをそのまま食べたことがあります。
もちろん、土はきれいに洗い落としました。ガリッとかじると、甘いのです。北海道といえば、すぐにえび、かになど魚介類がおいしいと思われるでしょうが、実は野菜がもっとおいしいのです。「北海道は野菜がうまい」のです。
食べきれない野菜をどう食べるのか、これも貸し農園の醍醐味のひとつ
話をキュウリに戻します。キュウリは天候に恵まれれば、2、3日でスッと大きくなります。実っていたのを見落とすと、夕顔のように大きくなってようやく気づくことがあります。
太鼓のバチのように大きくなったきゅうりをどう食べるか。あるいは冷蔵庫の野菜室に収まりきらない大量の野菜をどう食べれば良いのか。この悩みに出会って、本当の野菜栽培の楽しみを知りました。貸し農園だからこそ体験できる幸せの生活の始まりであり、醍醐味のひとつです。