日本から世界に発信するイタリア料理を考えてみました。(1)
日本から発信するイタリア料理とは(1)
イタリア食文化文筆・翻訳家 中村浩子
近い未来にコロナウイルスがほぼ終息し、インバウンド(外国人旅行)客が日本を訪れたとき、どのようなイタリア料理が彼らを魅きつけるのか、考えることがある。言い換えれば、「日本から発信するイタリア料理とは?」ということだ。3回連載で考えてみたい。
日本のイタリア料理のカテゴリーは大きく分けて5つある。複数のカテゴリーに同時に入るイタリア料理店がほとんどであると申し添えたうえで、話を進めよう。
〔1〕イタリア郷土・地方料理
1つめは、イタリアの各地で修業・料理経験を積んだシェフたちによる、現地の味にこだわったイタリア郷土・地方料理である。ときには自家畑でイタリア野菜・果物を育てたり、日本の食肉を生ハムやサラミに加工したり、あるいはチーズ工房でチーズをつくったり。できるかぎり現地の味を忠実に再現しようとする料理だ。東京・四谷の「オステリア・デッロ・スクード」、東京・駒込の「オステリア・セルヴァジーナ」、大阪・堺市の「バッバルーチ」などがそうである。
イタリアの野生イノシシにアフリカ豚熱が発生したことから、今年1月初旬より、日本へのイタリアの豚肉と豚肉加工品が輸入停止になっている。日本のイタリア公的機関関係者によると、フランスやドイツの例を見ても、3年ほどは輸入停止がつづくのではないかとのこと。日本で生ハムやサラミなどに豚肉を加工する業者やイタリア料理店は増えていくだろう。
「オステリア・デッロ・スクード」(東京・四谷)のロマーニャ地方の伝統郷土料理「カッペッレッティ・イン・ブロード」
〔2〕クリエイティブ・イタリアン
2つめは、イタリアやまたは(プラス)日本を含む他国での修業・料理経験をもとに、イタリアや他国の料理技術を活かしながら日本の食材を組み合わせたクリエイティブ・イタリアンである。ミシュラン1つ星を14年連続で維持する「リストランテホンダ」、「アジアのベストレストラン50」に3年連続ランクインした「ブルガリ イル・リストランテ・ルカ・ファンティン」ほか、「イノヴェーティブ・フュージョン」と呼ばれるジャンルもここに入る。
「リストランテホンダ」(東京・青山)の「岩手県産泳ぐ帆立貝と西洋ネギのテリーヌのサラダ仕立て」
〔3〕健康志向イタリアン
3つめは、健康をテーマにとり入れたイタリア料理である。新型コロナウイルス感染が世界に広がってから、多かれ少なかれ、健康のことを考えずに料理を食べない人はいないだろう。その点、アジアは、インド発祥の伝統医学「アーユルヴェーダ」や、中国の伝統医学「中医学」にもとづく「薬膳」、日本の「漢方」の生薬、民間伝承による野草・薬草や発酵食品など、健康のための食の知恵が豊かだ。また、有機野菜や有機食材を優先して使うイタリア料理店もこのカテゴリーに入るだろう。オーガニック食材を使う東京・駒場の「アーペ」、薬膳の考え方をとり入れた京都の「ルーデンス」、「無化学調味料・無食品添加物・減塩」を謳う広島の「リストランテ・アルヴェロ」がそうである。
「ルーデンス」(京都)の七谷鴨の薪焼き バニェット・ロッソ photo by Sachiko Goto