日本から世界に発信するイタリア料理を考えてみました。(1)

 

〔4〕地方活性化イタリアン

4つめは、シェフの故郷や、縁の深い地方・地域の産品を積極的に使い、その滋味を広く知らしめ、地方を活性化することをミッションのひとつとするイタリア料理である。山形県鶴岡市で庄内地方の在来作物を見出して広めた奥田政行シェフの「アルケッチャーノ」、熊本県阿蘇地域を世界農業遺産の認定に導いたあと、地元の「あか牛」をブランド赤身牛肉に押し上げた宮本けんしんシェフの「antica locanda MIYAMOTO」、青森県でワインづくりから手がける笹森通彰シェフの「オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」などがここに入る。

 

〔5〕サステナブル・イタリアン

5つ目は、環境や地球の保護、SDGs(持続可能な開発目標)、サステナビリティ(持続可能性)に配慮した食材や調理法をとるイタリア料理である。インバウンド客が日本でイタリア料理を食べようとするとき、お店の選択で最も影響力をもつのはフランスのグルメガイド『ミシュランガイド』だろう。その通称「ミシュラン」が、一つ星から三ツ星、手ごろな値段で良質な食事が楽しめるビブグルマンに加えて、サステナブルな取り組みを評価する「グリーンスター」という基準を2020年から設けた。東京のイタリア料理で初めてグリーンスターを獲得した銀座の「FARO」、岡山県備前市の「頭島レストラン クチーナ・テラダ」などがそうである。

 

「FARO」が初めて「ミシュラングリーンスター」を獲得した『ミシュランガイド東京2022』 ©ミシュラン

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日本で楽しめるイタリア料理を5つのカテゴリーに分けてみたが、実際はほとんどの料理店が複数のカテゴリーに属している。たとえば銀座の「FARO」はクリエイティブ・イタリアンでありながら、サステナブル・イタリアンであるように。

今回は「LUDENS(ルーデンス)」の料理を例に見てみよう。同店のシェフは日本での料理経験を経て「クリエイティブ・イタリアン」を軸に「お客に健康になってもらう」「地方活性化に貢献する」のカテゴリーを重ね合わせている。旧店名で京都のビブグルマン獲得歴もある。

「LUDENS」の田淵章仁オーナーシェフは、新型コロナウイルス感染拡大前から、薬膳の資格を取得していた。わたしが「世界イタリア料理週間 2021」の正式プログラムとして、薬膳イタリア料理の食事会をオーガナイズさせていただいたとき、皿の上で出会ったのが、京都の「弥栄(いやさか)」の加藤高志さんが育てる「七谷(ななたに)鴨」である。薪(まき)焼きでレアに焼かれた鴨肉は、赤身がきめ細かく、柔らかく、臭みがまったくなかった。鴨肉は薬膳では体に水分を与え、胃腸を健やかにするといわれ、栄養学的にもビタミンBや鉄分が豊富だ。薪は、台風で折れた比叡山の桜の枝と、くろもじの間引きの細い枝が使われ、サステナブルでもある。

 田淵シェフによれば、「七谷鴨の特徴は、みずみずしい肉質とうま味にあります。骨付きのまま薪でレアに焼くことで、表面は香ばしく、ジューシーな肉汁が保たれるのです」。七谷鴨は、今や京都のイタリアン一つ星店「CENCI(チェンチ)」から、大阪のフレンチ三つ星店の「HAJIME」までミシュランガイド掲載店10店舗を含めて、約500店舗が使う。だが、おいしいだけでなく、アニマル・ウェルフェア(動物の福祉)、食の安全安心を満たすこの鴨ができあがるまでは茨の道だった。

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