日本から発信するイタリア料理を考えてみました(2)   

  いま、日本のイタリア料理のサステナビリティを考えるにあたって、ひとつの好例を示してくれるのが、団体「Chefs for the Blue(シェフス・フォー・ザ・ブルー)」の活動である。フードジャーナリストの佐々木ひろこさんが代表理事を務める、この一般社団法人は、「日本の海を持続可能にし、食文化を未来につなぐこと」をめざしている。

 きっかけは2016年、駿河湾や相模湾に行った一連の取材だった。漁師のグループや大学の先生から話を聞き、日本の豊かな海から魚が消えている現状に驚愕したという。佐々木さんはフランス料理店「シンシア」(東京・北参道、ミシュラン一つ星でグリーンスター)の石井真介オーナーシェフから声をかけてもらった東京のトップシェフたちと、2017年深夜の勉強会を始めた。

 現在、ミシュラン星付きシェフを含めて40人以上のトップシェフが同団体に参加し、各シェフが自店で未利用魚の活用などに取り組んでいる。「FARO」の能田シェフも参加者のひとり。「FARO」の料理から、具体的にイタリア料理のサステナビリティを見てみよう。 

FAROの「イバラガニとラディッシュのマリネ」

 まずは、前菜の「イバラガニとラディッシュのマリネ」。カニとしては聞きなれない「イバラガニモドキ」は、漁網にかかっても捨てられることの多い未利用魚である。能田シェフは、「Chefs for the Blue」から神奈川県逗子の漁師、長谷川大樹(ひろき)さんの紹介を受け、長谷川さんが直送してくる魚のなかにあったのが「イバラガニモドキ」だった。

「魚の種類を指定した発注をせず、そのときに獲れた魚からメニューを考える」。「Chefs for the Blue」の取り組みのひとつである。「海産物は流通経路が複雑で、生産現場と消費現場が遠い」(佐々木さん)という弱点を解消し、小規模で持続的な漁業者を守ることにつながる。FAROでは、長谷川さんから送られてくる漁獲の画像から能田シェフが選び、翌日に納品される。メニューはあらかじめ決まっている物がほとんどだが、臨時に少量しか入荷しない魚に関しては、その食材を見てから能田シェフが考える。

 昨季から今季はズワイガニが記録的な不漁で、市場価格は例年の2倍を超えていた。「イバラガニモドキ」という未利用魚を使うことはサステナビリティに役立つと同時に、コストダウンにもつながっている。

 

「美笑牛クリのロースト パプリカの旨み」

 メインの肉料理はどうだろうか。千葉県旭市の「美笑牛」の未経産牛は、抗生剤を使わずハーブを混ぜた飼料で肥育されている。それでも、能田シェフは「家畜の肉はサステナビリティの点から見て不適切なものが多いため、使用を控えたいと思っています。野生の鳥獣を使っていきたい。たとえば、駆除された鹿などは適切な処理をほどこせば美味しく召し上がれます」という。FAROでは、能田シェフの創案により動物性食材をいっさい使わない「ヴィーガンコース」を提供している。始めて2年間くらいはまったく興味がもたれなかったが、SDGsや東京オリンピックを機にマスコミにとり上げられた追い風もあって、いまやお客の約半数がヴィーガンコースを注文する。

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