1㌦130円 籠る日銀 サインは指し値オペだけ 今こそ雄弁、寡黙は勘弁
20年ぶりの1ドル130円ですよ、素っ気ない発言内容と思いませんか。日本経済が順調に成長軌道を描いしている時なら、まだ微妙なニュアンスの変化で思わせぶりの政策変更を暗示できるかもしれません。しかし、日銀総裁、財務相それぞれの驚きも感想も湧かない発言を受けて円安は一段と加速しています。為替介入に対する姿勢が試されていることもありますが、日銀総裁や財務相が従来通りの発言を繰り返してもマーケットへの牽制にはなりません。日本の金融当局を見つめる視線は為替同様、冷徹です。
日本経済の実力は低下
日本経済の実力は着実に失われています。2022年4月20日は発表した2021年度の貿易統計速報によると、貿易収支は5兆3748億円の赤字。2年ぶりの赤字ですが、赤字幅は過去4番目。石油やLNGなど燃料に使用される資源高が大きな要因です。ロシアのウクライナ侵攻でエネルギー関連の資源は軒並み上昇しており、昨年から顕著になっていたインフレの炎がさらに大きく高く燃え上がり始めています。すでに米国FRB、ECBなど主要中央銀行は利上げに動いています。
仮にロシアのウクライナ侵攻に終息するめどがついたとしても、資源高のほか小麦など多くの農産物が世界的な供給不足の状態が解消するとは思えません。となれば、インフレ傾向に歯止めがかかることもないでしょう。各国中央銀行の利上げもまだまだ継続します。円安が加速する環境が整ってきています。
ところが予想通りといえば予想通りですが、日銀は1ドル130円に迫る為替水準に達した4月20日、指し値オペを通知しました。指定した利回りで国債を無制限に買い入れる公開市場操作と呼ばれる手法で、日銀がこれまで堅持してきた金融緩和姿勢に変化がないことをマーケットに占める狙いです。「男は黙って・・・」とばかりに行動で教えるのは昭和のお父さんの時代です。ちゃんと語りましょう。
指し値オペすれば誰もが欧米と日本の金利差は拡大すると推測します。日銀のアクションは円安に対して何もしないと受け止められるだけです。当日の為替水準は130円を突破しませんでしたが、為替ディーラーはかならず130円突破を試してマーケットに揺さぶりをかけます。
金融のマーケットを読む面白さは、市場参加者の胸の内を推し量る妙にあります。日銀は定例記者会見や講演会などを通じて金融政策を説明しますが、一般の人にはよく理解できません。投資家やエコノミストらは日銀総裁の言葉尻をとらえて、それぞれの思惑を込めて推測を繰り返します。新聞やテレビが1ドル130円の円安加速を解説していますが、いずれも日銀や政府の胸の内を推測するような内容になりがちです。日本経済が時代の変わり目を迎えている今、必要なのは日銀や財務相が雄弁に語ることです。
日銀の黒田会見は一見多弁ですが同じことを繰り返しているだけで多くは語っていません。まるで説明しない方が日銀の権威と金融政策の有効性を維持できると考えているかのようです。「風が吹けば桶屋が儲かる」。わかる人間にはわかるはず、といえば良いのでしょうか。むしろ口数や説明を抑えた方が政策への信頼性と正統性が高まると考えているのかもしれません。
残念ながら、現況を冷静に考えれば場違いの対応としか思えません。たとえが不適切かもしれませんが、麻雀の場を思い浮かべてください。日銀が捨てる麻雀牌を見ながら、企業や投資家らがどういう展開になるかを考え、損しないように自ら牌をそろえていきます。現時点の場の読みは、日銀の手は見え見えです。欧米の利上げの動き、資源や農産物の価格上昇などによるインフレ加速などで配牌に知恵を絞る時間が残されていません。平和(ピンフ)など安い手で上がり続けながら、とにかく「日本経済」が負けいないようにするしかないのです。一発逆転を狙って四暗刻など役満を狙う余裕も幸運もないことが明確です。
だからこそ、日銀や政府は日本経済がどう舵取りするかをしっかりと説明して欲しいのです。現在の経済状況をどう把握しているを示すとともに、20年ぶりの1ドル130円がどのような経済的な影響をもたらすのか。それを前提に政府・日銀はどのような経済政策を打ち出して、日常生活や企業活動を支援するのか。私たちは「ガソリン代や食料品、なんでも高騰している」と嘆くだけしかできないとしたら、悲しいです。この厳しい状況をどう乗り切れば良いのか、勇気と知恵を教えて欲しいのです。
「オズの魔法使い」も真実の姿に戻って、みんな幸せに
日銀を長年見ていると、「オズの魔法使い」を思い浮かべることがあります。魔法使いの正体がわからないため、オズの人々は恐れ慄き、敬い、信じるしかない。魔法使いは姿を隠し続けますが、物語の主人公の少女はその正体が「ただのおじさん」であることを知ります。魔法使いも本当の自分に戻ります。日銀も「秘密の花園」から抜け出して、雄弁に語ってください。