グリーン成長戦略②脱炭素の切り札、再生エネは前進、原発は一進一退
日本のCO2排出量が8年ぶりに増えています。
CO2は8年ぶりに増加
経済産業省が11月22日に発表した2021年度のエネルギー需給実績(速報値)によると、コロナ禍の収束に合わせて企業の活動が回復したため、最終消費は前年度に比べて2・0%増。エネルギーを供給する資源別にみると、石炭や石油など化石燃料が1・4%増と8年ぶりに増えており、とりわけ石炭は6・8%増と際立っています。水力を除く太陽光など再生可能エネルギーも10・3%増と健闘したものの、石炭など化石燃料が増えれば当然、CO2の排出量は1・2%増。8年ぶりに増えました。エネルギー全体で化石燃料が占める比率は83・2%と依然、高いのが現状です。
再生エネは初めて20%超
2020年12月に掲げた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」はシナリオ通りに前進しているのでしょうか。予想外のコロナ禍に見舞われ、さらにロシアによるウクライナ侵攻で石油・ガスをめぐるエネルギー需給はますます先行きが見えません。今回はCO2の排出量の削減、脱炭素への道筋をなぞって考えてみました。
日本政府が脱炭素戦略の切り札と考えるのは、再生可能エネルギーと原子力。2021年度は太陽光発電が急増したため、再生可能エネルギーは発電全体のうち20・3%を占めました。水力を含んでいるとはいえ、20%を超えるのは初めてだそうです。もっとも、太陽光発電の普及を急ぐ欧州や中国は30〜40%程度に達しており、日本の現状はまだ世界から立ち遅れています。
原子力は6・9%。再稼働などで前年よりは少し増えました。東日本大震災による福島第一原発事故で原発の大半は休止。再稼働に向けた審査が続いていますが、安全基準をクリアするために時間がかかっており、ここ一年で再稼働する原発が加われば発電に占めるシェアはもう少し高まるでしょう。
2050年は再生エネで50%以上を発電
2050年の目標を確認します。まず再生可能エネルギー。発電量全体の50〜60%を賄う方向です。グリーン成長戦略では「再エネについては、最大限の導入」と太字で明記。世界最大規模の洋上風力を展開する英国の意欲的なシナリオでも約65%、米国でも55%が目標だそうですから、政府・経産省も腹を括っています。2021年度は10%を超える伸びを達成し、水力を含め全体の20%を超えました。
これから高いハードルが待っています。日本は四方の海に囲まれているとはいえ、荒波が激しく洋上風力に向いておらず、しかも米国に比べて国土は狭くて山地が多く、太陽光パネルを設置できるほどの適地が少ない。グリーン成長戦略でも設置などで規制緩和しなければ50%程度が最大との試算があると指摘しており、設置場所の許認可、周辺住宅地などの騒音や環境破壊などの諸問題を解決しなければシナリオ通りには進みません。
グリーン成長戦略には規制緩和のほか技術開発、発電所や送電線網などへの助成措置などを盛り込み、資金面で後押ししています。豊田通商のように北海道で大規模な発電所と送電網を合わせて投資する動きは広がっています。太陽光や風力を活用する技術開発が進むのは確実ですし、ビジネスとしても次第に離陸する見込みが出ています。50%に達するかどうかわかりませんが、手が届く可能性が高いのではないでしょうか。
原発は一進一退です。再稼働を見込める原発が予想通り増えないうえ、新増設の可能性はほぼありません。新型原発の開発など原子力の活用に向けてなんとか明るい材料を示そうと努力していますが、いずれも2050年までに稼働するのは期待薄です。現実的な対処法として停止期間を除いて運転期間を延長する方針が検討されていますが、老朽炉の安全性の担保もかなりの難問です。
もう一つの切り札の原発は立ち往生しそう
原発が脱炭素の切り札として機能しなければ、グリーン成長戦略の骨格が揺らぎます。電力と並ぶ民生・産業・運輸などはCO2を削減するため、電化比率を高め、電化できない部分も水素やメタン、合成燃料など化石燃料に頼らない需給構造に転換する方向です。しかも、電化した部分の需要は、再生可能エネルギーや原発、水素、アンモニアなどで発電して賄い、電力と民生・産業など双方でCO2を排出しない電力を活用し、ダブルでCO2を一気に削減する計算式を想定しているからです。
脱炭素実現の構図が崩れそう
ところが原発は電力全体の30%以上を担う想定です。贔屓目にみても30%は難しい。そうなれば脱炭素の構図が崩れます。柱の一つである原発の発電が計画通り達成できないと、民生や産業などの電化が遅れ、CO2削減にブレーキがかかってしまいます。
グリーン成長戦略は立ち往生するのでしょうか。次回に続きます。