アイヌ、アボリジニ、マオリ シャクシャインは英雄、和人は・・・
10年ほど前、北海道新ひだか町静内にあるシャクシャインのチャシ(砦)を初めて訪ねました。シャクシャイン像と記念館があります。館内を見学していたらお子さんを連れたお母さんが声をかけてきました。「興味があるんだったら、アイヌの歴史や文化がわかりやすい小中学生用のパンフレットを差し上げますよ」。
「えっ小中学生のパンフレット?」。これをきっかけにお母さんと雑談したのですが、「私はまだ松前町に行ったことがない。行きたくもない」とお母さんがポツリと漏らしました。実は私も松前町に行ったことがありませんでした。松前藩はアイヌとの交易などで北海道を事実上統治した時期がありましたが、アイヌ民族に対する過酷な統治のイメージが強く、観光地として訪れる気がしませんでした。
お母さんは続けます。「最近は韓国の人も日本の流行などを好きになっているようだし、私も松前町に行ってみようかと考える時もあるんだけどね」。日韓関係と松前への思いが重なるとは・・・
英雄シャクシャイン象の下で改めて自分が和人であることを認識した瞬間でした。
その後アイヌの公益財団法人を訪れ、私自身の守り神は父親からくれたアイヌの酋長像なんですと財団の職員さんに話したら、「子供時代はずいぶん稀有な、というか呑気に過ごしたんですね」と何もわかっていないと皮肉られました。ただ、私が酋長の顔立ちや太刀を差して正装した姿を説明したら「今ではこんなに精巧な酋長像を彫れる人はいないんじゃないかな」と、酋長さんが褒められたのはとてもうれしかった。松前町には翌年訪れました。
今でもふと思います。父親はなぜアイヌの酋長像を守り神にと、私にわざわざ伝えたのか。毎日酋長さんと顔を合わせますが、その視線は遠くを見つめているだけです。
土間の上に吊るされる鮭の保存食