アパホテル 元谷さんの飽くなき事業意欲を活かすためにも、そろそろ上場を

 アパホテルの勢いはいつまで続くのでしょうか。ホームページを見ると、全国でリニューアルも含めオープンのニュースがずらりと並びます。ホテルチェーンは732ヶ所、部屋数は10万6205室といずれも驚く数字が続きます。上場していないので、会社の中身はよくわかりませんが、ホテル、不動産開発などがアパグループを形成しています。

大江戸温泉の資産運用会社を買収

 2023年12月には大江戸温泉の資産運用会社を買収しました。大江戸温泉リート投資法人の資産運用会社、大江戸温泉アセットマネジメントの株式全てを取得します。大江戸温泉は全国のホテル・旅館を収めており、アパグループは今回の買収を契機に大江戸温泉のホテルなどの活用、不動産情報などを活用して支援することになるそうです。アパを冠したホテルチェーンがもっと増えるのでしょう。

  新たな収益源として研究していた不動産投資信託(REIT)の活用も拡大します。投資家から集めた資金で不動産への投資を行い、賃貸料収入や売却益などの収益を分配する金融商品ですが、全国トップクラスのホテルチェーンとして多くの不動産を抱えるアパグループです。大江戸温泉の資産運用会社を手中に収め、新たな収益源の柱として不動産を金融商品を育てるのは自然の流れです。

 アパグループの創業者、元谷外志雄さんを昔々、取材したことがあります。1980年代、石川県の金沢市に新聞記者として赴任しました。入社3年目で、まだ半人前ですが、過去2年間流通業を主に取材していたので、個性的な経営者と会うのが好きです。石川県など北陸地方を取材していると元谷さんの噂を耳にし、ぜひ会いたいと思ったのです。

本谷さんは地元で異色経営者であったが

 元谷さんは石川県小松市出身です。高卒後、地元の信用金庫に入社しましたが、将来、自分自身の会社を創業するための勉強と割り切っていたそうです。1971年にアパの前身となる信金開発を設立、不動産業界を突っ走ります。取材した当時は、創業から10年過ぎた頃ですが、「信開」の名前が会社の表看板で、現在のアパグループの勢いを予感させるほどの風雲児ではありませんでした。

 ただ、北陸には珍しい異色経営者として目立っていたのは事実です。石川県はじめ北陸地方は加賀藩の文武二道を誉とする気風を継承し、伝統工芸、職人気質をとても尊ぶ風土です。地味ながらも優れた職人技を伝承して他が真似できない工芸品を仕上げる。この気質が北陸に工作機械メーカーなど優れた製造業を輩出した源です。

 元谷さん出身の小松市も建設機械の世界企業、コマツが誕生した土地です。ただ、小松の土地柄は、生真面目なだけではありません。北前船の寄港地として栄えた地域ですから、進取の気質が強く世界に打って出ようという思いを持つ人が多いのです。元谷さんは、小松出身らしいといえば簡単ですが、危うさも感じられた経営者でした。資金力もまだ余裕はありません。機械加工など目にみえる技術や資産を持っていたわけではありません。しかし、アイデアと野心は十分に秘めていました。注文住宅、分譲マンション、ホテルと手を広げていました。

 インタビューを新聞に掲載しようと考え、銀行も含め取材先に相談すると「おもしろじゃない」と賛成する人は少数派。まだ事業性、将来性に不安があるから、見送ったらとの声もありました。もっとも、石橋を叩いて渡るのが常識と思うほど手堅い事業が評価される北陸です。全身前のめりの経営者がいるとの記事を掲載したいと考え、押し切りました。

 記事の反響はとてもありました。「石川県から野心あふれる経営者が登場する」といったイメージですね。ベンチャー企業というイメージではありません。失礼ながら、横紙破り的な経営者というのでしょうか。

そろそろ上場してもっと信用を高める時期

 金沢の勤務を離れた後も、元谷さんは奥さんが社長としてテレビCMに煩雑に登場してアパホテルをPRします。後ろに控える本谷さんの姿がすぐに浮かぶので、正直その意図は理解し難いところはありました。創業者の経営哲学をもっと率直に語る場面があっても良いのではないか。しかし、それは商売の極意ではなく、新聞記者の勝手な都合だったのでしょう。

 その後のアパグループの経営拡大を考えたら、的外れとわかります。ただ、素朴な疑問がいつも残っています。あの経営拡大のスピードと資金繰りの帳尻が合っているのか。ホテルは自社物件、大量の日銭が入るなどの理由で手元資金に余裕があると思うので不安を覚えているわけではありませんが、そろそろ上場して財務などを公明正大に説明し、もっと信用力を高める時期に差し掛かっているのではないでしょうか。一代で日本トップのホテルチェーンを築いた経営者です。もう40年前になりますが、あの挑戦的な元谷さんの表情が忘れられません。もっと飛翔する経営者と40年前から期待していたのですから。

◆ 写真はアパホテルのホームページから引用しました。

関連記事一覧