次の日銀総裁?求められるのは”大谷翔平”より「説明する力」と「聞く力」
日本銀行の黒田東彦総裁が来年4月に任期を迎えます。黒田バーズカで名を馳せた方ですから、多くのメディアで紹介されており、説明は不要でしょう。その功罪も数多く語られています。就任当時、デフレと円高で沈滞していた日本経済に活力を注いだのは事実です。就任前の日経平均は1万1000円ちょっと。それが今は2倍以上も上昇しました。しかし、目標とした物価2%上昇は空振り。厳しいですが、日銀の歴史に残る努力と奇策を講じたのですが成果は遠いまま。あと半年後に誕生する次期日銀総裁は誰がふわしいのか。良い機会なので考えてみました。
日銀は米大リーグのエンゼルス?
この9年半、黒田総裁が指揮した日銀は米大リーグのロサンゼルス・エンゼルスと重なります。大谷翔平とトラウトがMVP級の活躍をしても、ポストシーズンに進めません。全米の話題を集めても、プロの世界は結果がすべて。エンゼルスに売却話が出るのも肯けます。ただ、野球は勝ち負けを楽しめば良いのです。来年春の開幕まで「大谷ロス」は寂しいのですが、これから半年間は大谷翔平がどう活躍するかを夢想するのも遊びです。
日銀総裁はそういきません。私たちの生活に直結します。日経平均が上昇してもこの10年間、賃金は上がっていません。ドル円の為替相場は大きく動いても、生活実感は好転しません。日銀だけの力で世の中変わるわけはないとわかっていても、日本や世界の金融のど真ん中にいるのが日銀です。しかも、政府・財務省の影響を受けない独立性が法律で守られています。日銀の存在は、政府が発行する国債や金融機関の収益担保にあるわけではなく、日本経済の健全な成長と国民生活の安定を守るためにあるのですから。
黒田総裁は異色、スーパースター
黒田総裁はかなり異色な存在です。過去の総裁は慎重な言い回しが当たり前。特に前任者の白川さんは正しいことを説明していると思うのですが、目の前の課題をどう解決するのかが伝わってこない。日銀の持つ影響力の大きさの裏返しともいるのでしょうが、言質を取らせない、誤解されたくないという思いだけが伝わってきます。
ところが、黒田さんはスーパースター。大向こうする演出が好きでした。就任直後に物価上昇の目標2%を2年程度で達成すると宣言。キャッチフレーズと説明用パネルを使って訴え、市場の予想を上回る国債や株式の大幅な買い入れを実施。かつてない大量の資金が市場に流れます。
派手な太鼓の音が思ったよりも市場に響かないと、続けて新たなキャッチなフレーズを唱え、大胆な政策を打ち出します。2016年はマイナス金利にも踏み込み、金融機関の経営が危ないとなると短期金利はマイナス、長期金利はゼロ%程度という「イールド・カーブ・コントロール」という奇策も編み出します。
残念なのは中盤から政策疲れが目立ち、ファンの目も冷めて
残念なのは大谷翔平は投打の二刀流いずれも大リーグトップクラスの実績を挙げていますが、黒田日銀の場合は期待通りの活躍はスタート当初だけ。中盤からは政策疲れが目立ち、ファンの目も冷めてしまいました。
経済は日本だけで動いているわけではありません。世界経済に常に左右され、コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻など予想もしない事態に巻き込まれます。一人相撲できるわけではありません。ただ、日銀の政策決定の見通しの甘さは否定できません。日銀元副総裁が日銀の金融政策が不発に終わった原因として消費税の増税を槍玉にあげていますが、突然舞い降りてきた増税ではありません。こんな弁解が通用すると思うこと自体、机上の空論を振り回していたかのような誤解を与えます。