次の日銀総裁?求められるのは”大谷翔平”より「説明する力」と「聞く力」

 それでは日銀の次期総裁に求められるものは何か。目の前の政策課題は数えきれません。ロシアのウクライナ侵攻による石油・ガスの安全保障問題、エネルギー、農産物も含めた価格高騰、足腰の衰退が目立つ日本経済、なによりも巨額の借金を抱えた日本の財政問題。外国為替は24年ぶりに1ドル145円台へ突入し、欧米など世界の中央銀行と乖離する金利政策にどう対応するのか。痛みを覚えない最適解があるとは思えません。次に選択する政策がこれまで蓋をしていたパンドラの箱を開くかもしれません。

まず政策課題を説明し、国民の声を聞いて

 次期総裁に求めたいのは日本経済の現状を説明できる能力です。国民は素朴な質問を数多く抱えています。石油・ガスなどエネルギー、小麦など農産物と続く物価高騰に対し、政府・日銀はどう対応しようとしているのか。企業などミクロ経済の苦境は日本経済全体にどう反映されるのか。例えば、現在の円安はメリットなのかデメリットなのか、私たちの賃金は本当に上がるのか。

 「日本は中国に抜かれたとはいえ世界第3位の経済大国、世界で最も安全安心な国。まだまだ素晴らしい国」。こう信じたいです。しかし、現実は20年以上も賃金が上がらず、莫大な国の借金を抱え、世界で勝ち残ってきた唯一の産業である自動車も陰りはみ始めています。「新しい資本主義」と唱え、日本を変えようと声高に叫ぶ首相や政治家が現れましたが、一年も経たずに「新しい資本主義」はどこかに消えています。「聞く耳」を強調しますが、その耳はどの耳を指しているのか。

 「日銀はもっと説明すべきだった」。黒田総裁の前任者、白河さんは自著「中央銀行」で自身の総裁時代を吐露しています。黒田さんは白川さんよりは多弁、饒舌だったと思いますが、ここ数年の記者会見では多弁は変わりませんが、同じ答弁の繰り返し。これでは語っていないのに等しい。

 次期総裁には「聞く耳」も望みたい。市場の声を聞くだけでなく、国民の声です。ウクライナ侵攻も加わって消費者物価は2%を超える幅で上昇しているにもかかわらず、賃金上昇が伴わないので「日銀がめざす物価上昇ではない」と説明します。金融政策の識者としての思いは理解できますが、スーパーなどの店頭で買い物する消費者からみれば高いものは高いのです。

 金利政策も同様です。日米の金利格差の拡大は続きそうです。なぜ金利の開きが生まれるのか。日銀は金融政策決定会合の議事録を公表していますが、あの文書を読んで理解できる人が何人いるでしょうか。委員の中でも「もっと説明すべき」との声が出ているほどです。

国民も苦境に立ち向かう勇気が湧くはず

 政府が聞く耳を持たないなら、せめて日銀は国民の不安や愚痴を聞いてほしい。日本経済の現実を知れば、これからの苦境に立ち向かう勇気も少しは湧いてきます。ていねいに説明し、聞く姿勢を示してくれれば、多くの国民は雲の上の孤高の存在だった日銀が下界に降りてきたと感じます。日銀の役割は自ずと明確になり、期待も広がります。政策効果もフルに発揮されるでしょう。

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