問われる日銀の独立性「不安定なら利上げしない」レームダックの政権との妥協は許されない
嫌な予感はありました。腹を据えて決めたことなら、グッと我慢するのが日本銀行じゃないですか。日本経済の大黒柱です。足元がふらついたら、頼りにしている国民の不安が募ってしまいます。1990年代以降、バブル経済の崩壊などで日本の金融市場の混乱と低迷が続き、抜け出せません。世界の金融市場での地位も大きく低下、今や注目度は悲しいくらい低い。せっかく金利が消えた異常な市場から金利がある正常な市場に戻ったのです。国民が頼りにしていない岸田政権と妥協するような姿勢を見せないで欲しいものです。
相場はジェットコースター
日銀はあらかじめ金融市場の激震は予想していたはずです。7月末の金融政策決定会合で利上げを決めた直後からドル円相場、株式市場は予想通り、乱高下。ジェットコースターと表現する向きもありますが、金利が消えていた日本の金融市場に0・25%の金利が現れたのですからピンボールゲームのようにマネーが金属音を鳴らして飛び交うのは当たり前です。ただ、世界のマネーはピンボールのようにあちこち跳ね返されながらも、最後には落ち着く場所に収まるものです。
ドル円相場は160円台から140円前半まで円高が進行する一方、日経平均はブラックマンデーを超える下げ幅と上げ幅を演じ、米国のダウ平均も米国景気の減速観測を巡る利下げ予想などで乱高下。ドル円の金利差を活用したキャリートレード、コンピューターによるプログラムで判断する超高速取引などもあって大きな振れ幅でしたが、瞬間風速の現象と割り切れる程度ではなかったのでしょうか。
ところが、新NISAなど投資を奨励していた岸田政権は8月6日、財務省と金融庁、日銀の3者による情報交換会合を開き、東京株式市場の乱高下や外国為替市場の相場急変動を受けた対応を協議しました。三村淳財務官は株価変動などを説明し、政府と日銀で緊密に意思疎通することを確認したことを強調します。言い換えれば、政府の考えを念頭に日銀は金融政策を進めると公言したわけで、日銀への牽制球とも受け止めることもできます。
内田副総裁の発言に政府の影響
翌日の7日、日銀の内田真一副総裁は北海道函館市での講演で「金融資本市場が不安定な状況で利上げをすることはない」「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続けていく必要がある」と明言します。まるで前日の三村財務官の発言に付合させるかのようです。
素朴な疑問があります。市場が安定する時ってあるのでしょうか。ドル円相場、株式・債券市場などを見ればわかりますが、常に変動します。当たり前です。売買を繰り返して利益を生み出そうとするのが市場です。さまざまな情報、期待、意図的な情報操作が加わり、変動する日々を繰り返すのが習性です。トレーダーは市場が動かさないと仕事になりません。
日銀副総裁はそんな常識を熟知したうえで、今後の政策について「引き続き政策金利を引き上げるとの考え方は、経済・物価の見通しが実現していくとすればという条件が付いている。この点、ここ1週間弱の株価・為替相場の大幅な変動が影響する」と説明。現行の0・25%という金利水準については「名目としても、特に実質ベースでみれば、極めて低い水準だ」と基本姿勢を強調しました。
昨年春、日銀総裁は黒田氏から植田氏へ移り、大規模緩和を軸にした金融政策が大きく変わる流れに転じたと金融市場は受け止めています。実際、植田総裁は劇薬を避けながら、徐々に利上げに向けて市場の空気を醸成させてついに実行。正常な金融市場へだ一歩を踏み出したところです。
ETF買いの処理も待っている
内田副総裁の発言は植田総裁の考えをていねいに踏襲していますが、やはり日銀の姿勢の揺らぎは否定できません。岸田首相、財務省の意向を念頭に置いた政治的意図が含まれていると割り切ることもできますが、金融市場は敏感に日銀の姿勢を疑います。日銀は政府に左右されずにその独立性を維持できるのか。1980年代後半、バブル経済が発生したころ、日銀の三重野総裁は政府の圧力を感じ、利上げの判断時期を逸しました。
日銀が軌道修正しなければいけない金融政策は利上げだけではありません。東証株価を下支えしてきた大量のETF(上場投資信託)買いの出口戦略も注目されています。4月時点で時価74兆円と言われ、日銀は多くの上場企業の大株主となっているほどです。日銀が大株主の現状は異常です。どう正常化するのか。日銀が自らの出口戦略に向けて、金融政策について信頼を守りながら国民にいつでも説明できるようにして欲しいです。