香港デモの「小さな主語」、カーボンゼロの成長戦略にも大事なキーワード
香港デモ「小さな主語」で語る
最近読んだ「香港デモ 「小さな主語」で語る」(現代人文社 石井大智・編著)からたくさんの刺激を受けました。直近の香港情勢についてはここでは説明しませんが、本書では中国、英国植民地など多様な歴史と表情を持つ香港が直面する一国二制度の終焉の行方について14章にわたって様々な背景を持つ人たちが現地で何が起こり、人々は考えたのかを語っています。香港問題は米中対立の激化に代表される国家戦略という「大きな主語」で議論されることが多いですが、編著者の石井さんは本書の趣旨について「香港デモの中の「小さな主語」を理解する、すなわちデモの中で生きた一人ひとりを理解するには、彼らが考えていることそのものだけでなく、彼らの考えが「構築」されるまでに至った経験も細かく記さなければならない」と説明しています。例えばローマ帝国を語るとしてカエサルやアウグストゥスなどの名前だけを知っても歴史の本質を理解することはできませんし、これから迎える未来を考えることもできません。帝国を支えた兵士や家族、その周辺地域との相克など多くの人間が生き、関わりながら人類史の軌跡が描かれているわけですから。余談ですが、ヘーゲルは「われわれが歴史から学べることは、人間は歴史から学ばないことだ」と述べているそうですが・・・。
新聞記者を長年続けてきた身としては、この「小さな主語」の目線を積み重ねながら直面する問題を考える姿勢はとても好きです。目の前で起こっている事実を見過ごすわけにはいきませんし、事実を都合の良いように取捨選択して「世の中」を作り上げてしまえば、それは虚構しか残りません。1990年代のバブル崩壊以降、デフレの呪縛が逃れらず経済成長が足踏みしているところにコロナ禍の衝撃が加わった日本経済。4月22日に開催された気候変動サミットで菅首相は2030年度にCO2の排出量を13年度比で46%減少させると表明しましたが、その工程表は明らかになっていません。原発再稼働、鉄鋼、自動車など日本の基幹産業の事業改革など待ち構える難問はまだ棚ざらしのままです。カーボンゼロ という「大きな主語」を日本全体の改革(それは革命という言葉がふさわしいと思いますが)をどう進めていくのかは、最前線に立つ企業や生活する人間という「小さな主語」で考え共有しなければ、政府がいくら旗を振ってもゴールは遠のくばかりです。コロナ禍の感染症拡大を抑える緊急事態宣言やまん延防止等重要措置が空回りしている現状を見れば、「一人ひとり」がいかに重要かがわかります。これから頑張ろうという時にケチをつけるなとの声が聞こえそうですが、綺麗な言葉を数多く並べて絵空事を描いても現実にはなりません。とりわけ経済政策は日銀や財務省によるマクロ的視点ばかりが注目を浴びますが、日本経済の現状を見れば日銀のゼロ金利など大胆な政策誘導がどこまで機能しているのか、果たしてマクロ政策は今でも有効なのかという疑問が消えません。
「大きな主語」にとらわれずに
「大きな主語」にとらわれずに「小さな主語」で日本経済の再生、カーボンゼロ に向けた企業や人々の取り組みを確実に実践して2030年に向かうことが求められています。From to ZEROは「小さな主語」、人間の目線に立ってカーボンゼロのナビゲーションの一役を担う覚悟です。