ふるさと創造7 能登町「イカ」紋別市「蟹の爪」大間町「まぐろ」 食べたらおしまい?

 観光地によく見かけるモニュメントについて書いてみます。きっかけは石川県能登町が設置したイカのモニュメント。コロナ禍で支給された交付金でイカのモニュメントを製作して町民から無駄遣いと批判されたものの、能登町はつい最近、6億円以上の経済効果を上げたと胸を張りました。能登半島は若い頃から文字通り舐めるように取材で歩き回っていますので、輪島市や珠洲市などに比べて観光の目玉が乏しかった能登町が盛んなイカ漁を題材に話題作りに懸命なのもわかります。ただ、全国を歩き回っていると、イカに限らず観光客向けのモニュメントによく出会います。「観光客を集めること」について考えてみました。

イカキング、建設費22倍の経済効果

 能登町の経緯を簡単に説明します。2021年3月、観光施設「のと九十九湾観光交流センター」に全長13メートル、幅9メートルのイカのモニュメントが登場しました。強化繊維プラスチックで制作され、「イカキング」と名付けられました。観光施設は「イカの駅つくモール」と呼ばれ、イカ漁が盛んな能登町をアピールするのが目的です。製作費は2700万円。このうち2500万円は国から新型コロナウイルス対策として交付された地方創生臨時交付金(コロナ交付金)から振り分けました。

 コロナ交付金が「イカ」に姿を変えたのです。町民から批判が出るのもわかります。昔、竹下登首相が地方創生という名目で各自治体に1億円を配布しましたが、いろいろなモノに化けて「イカがなものか」と言われていたのを思い出します。あの時から「地方創生」は政治家や自治体にとってとても便利な言葉だと考えています。

 能登町は相当、気にしていたのでしょう。8月末にイカキングが生み出した効果を説明する資料を発表しました。経済効果は約6億400万円。テレビなどパブリシティ、宣伝効果は約18億円。イカキングを設置してから16カ月間を試算しました。観光施設を訪れる観光客の45%はイカのモニュメントを目指してきたそうです。発表資料には「能登町が目指す姿とイカキングの狙い」と題した観光政策についても詳細に説明しています。町民からの批判はかなり強かったのだと推察します。

能登町の経済効果を説明する資料はこちらから https://www.town.noto.lg.jp/open/info/0000022066.pdf

 地元名産をキャラクターに仕上げたモニュメントで、記憶が鮮明なのは青森県大間町の「まぐろ」と北海道紋別市の「蟹の爪」。大間町は説明するまでもなく、マグロの町。お約束通りの写真撮影用とはいえ、大間に来たからにはマグロと並んで写真を撮影しました。次いで紋別市の「蟹の爪」。流氷の街を観光の謳い文句にする紋別で開催した「流氷アートフェスティバル」で製作されたオブジェで、高さは12メートル、幅6メートルもある蟹の爪はとてもリアルに仕上がっています。流氷の上に設置されたそうですが、現在は観光施設のすぐそばに移設されています。

映える時代にモニュメントは不可欠かも

 「映える」写真を撮影してインスタグラムなどSNSで発信する時代です。イカキングもまぐろも蟹の爪も観光客がめざす魅力は十分にあるはずです。大事なのは一過性で終わるのか、継続して人を集める力があるのか。観光用モニュメントを見ると、いつも思います。例えば能登町は、朝市や漆器で有名な輪島市、厳しい自然の風景を体感できる珠洲市、温泉で全国からお客さんを集める七尾市が同じ能登半島で待ち構えています。「おいしいイカが食べられる」だけなら、和倉温泉の「加賀屋」で十分なんてお客もいるでしょう。

 能登半島にはまだまだ魅力がたくさんあります。能登町のすぐ近くにはある穴水町も七尾湾に面しておいしい魚介類に恵まれていますが、今は桜の名所としてのと鉄道「能登鹿島駅」がたいへんな人気です。もう40年飲み続けている日本酒「宗玄」はじめおいしい日本酒、ランプの宿、イタリアンなど車でちょっと回るだけで多くの感動を味わえます。

 紋別市の「蟹の爪」はかなり映えます。零下20度ぐらいの中でも家族連れで写真を撮る人が続いていたぐらいですから。ただ、それだけではありません。外気は零下20度ですが、流氷関連施設のスタッフは熱いのです。観光客のみなさんにていねいに、しかもちょっと熱すぎる流氷に関する説明を体験すると、「また来よう」と思ってしまいます。

ホテル百万石の吉田さん「スタッフの熱意と地域一緒の盛り上がりが大事」

 石川県山代温泉、「ホテル百万石」の吉田豊彦さんを思い出します。吉田さんは実家の中小旅館を再建するため、東レを辞めてホテル経営の常識を打ち破り、全国でもトップクラスの人気を集めました。全国の温泉旅館・ホテルはホテル百万石をまねて設備投資したほどです。吉田さんは経営の秘訣を問われると、こう答えました。「大きな目玉を一つ作るのはとても大事。でも、お客様が2度も3度も訪れてもらうには、スタッフの熱意と地域で一緒に盛り上げる努力を欠いたら続かない」。 

 「イカキング」「まぐろ」「蟹の爪」一度食べたらおしまいじゃ、もったいない。これからですよ。

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