マイナンバーカード、最大の敵は眼前の行政組織 内なるアナログ岩盤が待ち構える

 マイナンバーカードがデジタル社会の切り札に躍り出ます。政府は2024年秋をめどに健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体にした「マイナ保険証」に切り替える方針を決めました。河野太郎デジタル相はすでに決めている運転免許証の一体化の時期についても前倒する考えです。

翌日、「運転免許書は違う」と公安委員長

 国などの証明書や諸手続きをマイナンバーカード1枚に集約して、国や自治体の行政をデジタル化するDX(デジタル・トランスフォーメーション)を加速する姿勢を改めて仕切り直したわけですが、待ち構える最大の壁は自らの身内、国の官僚組織や自治体のお役所体質。慣行に凝り固まったアナログ岩盤を打ち破れるのでしょうか。

 「マイナーカードとの一体化で運転免許証を廃止することは検討していない」。河野デジタル相が表明した翌日の閣議後会見で、谷公一国家公安委員長はこう説明しました。一体化の時期についても「システム障害が起こらない品質の確保」を重視する考えで、「健康保険証の扱いとの違いを指摘します。免許証の発行は都道府県の公安委員会が担当。都道府県のシステムがが統一されておらず、2023年1月からようやく統一に向けた新システムが稼働するのですから、一体化を前倒しといっても?。

カードはデジタル社会のパスポートだが・・・

 新聞やネットメディアによると、河野デジタル相は、マイナンバーカードはデジタル社会への入り口を開くパスポートと例え、「様々なシーンで使われていくために周知もしっかりやっていきたい」と強調しています。

 実は、健康保険証への切り替えは義務化しても申請すれば現行の保険証を交付できる仕組みでした。今回の方針で保険証は廃止されることになるそうです。この考え方に従えばマイナンバーカードと運転免許証の一体化は、運転免許証の廃止と理解されます。ところが谷公安委員長は運転免許証は健康保険証と違うといいます。デジタル社会のパスポートへの道は表明した翌日からつまづきました。

 マイナンバーカードと健康保険証の一体化は普及が遅れる現状打開の一策です。ポイント還元やテレビCMでお金をばら撒くキャンペーンを派手に展開しているにもかかわらず、カードの交付率は5割を切っています。政府が掲げる23年3月末までにほぼすべての国民に交付する目標はとても達成できそうもありません。

日本のデジタル社会の現状とかけ離れている

 国民皆保険の象徴である健康保険証を切り札に一気に交付を増やそうという気持ちはわかります。しかし、公安委員会のみならず国や地方の行政組織、社会基盤を支えるインフラ・慣習はまだアナログのまま。記憶に新しい例では山口県のある町で起こった交付金をめぐる事件でしょうか。町職員がフロッピーディスクを使って銀行との手続きをしていたのが原因です。フロッピーディスを今でも使われている事実自体、驚きでしたし、まだ手に入ることすら知りませんでした。

 住んでいる自治体でさまざまな手続きを経験すれば、すぐに体感できます。例えば、私が住んでいる自治体では申し込みは往復はがきやファックス。メールを利用した手続きはまだわずか。またマイナンバーカードの更新やパスワードの再設定などには免許証や健康保険証の提示を求められます。マイナンバーカードはパスポート同様、顔写真が添付され、自己証明できる公式文書なはずですが、カード一枚では証明できないのです。

デジタル競争力は世界29位に後退

 日本のデジタル社会は世界に大きく遅れをとっています。世界の競争力調査などで知られるスイスのビジネススクールの国際経営開発研究所(IMD)が発表した2022年のIMD世界デジタル競争力ランキングで、日本は63か国のうち29位となり、過去最低の順位に後退しました。デジタル後進国といわれても反論できないほどですが、根深い問題は日本がデジタル競争で遅れてるとの認識、あるいは自覚が低いことです。

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