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ダイキン、ニデック、日揮 実力経営者は肩書グローバルグループ代表を選ぶ

 「社長」という肩書きがなんて軽い時代になったのでしょう。昭和の社長は会社で最も偉い人。自他ともに認めるオーラを発していましたが、平成に入ってからは会長兼社長、社長兼最高経営責任者(CEO)、会長兼CEOなど色々な肩書きが創案され、「社長」は埋没。会社内の序列が不明になってしまい、誰が偉いのかわかりません。会社経営は代表取締役が最終責任を負うのが原則と理解していても、本当に実権を握っている人の肩書きを見極めておかないと困ってしまいます。最近のトレンドは、どうも「グローバルグループ代表」のようです。

「社長」の軽さは目を覆うばかり

 直近ではニデック。この4、5年、創業者の永守重信会長の後継として外部からスカウトした優秀な経営者が何人も社長に就任しましたが、いずれも永守会長から合格点を得られずにバタバタと辞任。今度こそ最後と明言していた社長人事がようやく固まり、2024年4月1日付けで岸田光哉副社長が就任することになりました。肩書きは社長兼CEO。永守重信会長は代表取締役グローバルグループ代表に、小部博志社長兼最高執行責任者(COO)は会長に。

 経験豊富な経営者を何人も切り捨てて、選んだ岸田氏です。次代のニデックを託されているのかと考えたいのですが、素直に受け止められません。やっぱり一番偉い人は永守グローバルグループ代表。代表権を手放していませんし、岸田社長はソニー常務からニデックに入社して2年しか経過していません。2兆円を超える会社の細部を完全に理解しているとは思えません。

ニデックの次代はグローバル展開で

 永守会長は新設したグローバルグループ代表を最長でも4年間で退任するそうですが、これからの4年間は創業精神の継承とM&A(合併・買収)を担当します。ニデックは2030年度に売上高10兆円を目指しており、そのカギはグローバル展開。「ニデックの原点に今一度立ち返り、リジェネレーション『第二創業』を成し遂げたい」と岸田新社長は自らの目標を説明していますが、「第二の創業」の骨格と肉付けを決めるのはグローバル展開。実権を握るのは永守グローバルグループ代表。

 しかも、6年後の2030年度に売上高を5倍にする猛烈な経営計画は、岸田社長にはあまりにも荷が重すぎます。これまでも、そしてこれからもニデック社員が指示と決断に注視するのはグローバルグループ代表と考えて間違いないでしょう。

 グローバルグループ代表という職は突然、振って湧いた肩書きではありません。踏襲すべき良い実例があります。ダイキン工業の井上礼之さん。肩書きは会長兼グローバルグループ代表執行役員。主力のエアコンで国内市場が成熟化したので、海外に出るしかないと勇躍打って出て、今や170の国で事業展開する空調機器・化学製品メーカーに育て上げました。

ダイキンの井上さんは2014年から

 井上さんは1994年に社長就任してから、30年間、会長兼CEOを経て2014年から会長兼グローバルグループ代表に就任しています。もう10年の実績です。30年間も経営トップの座にあれば、会社経営に緩みが現れ、業績が低迷すると思われがちですが、エアコンでは世界トップに上りつめ、業績も右肩上がりを維持しています。社長就任時の海外売上高比率は10%を超える程度でしたが、現在は80%を超えています。

 井上さんとご一緒に旅行し、その人柄に触れる機会がありましたが、社外の声に耳を傾け、ダイキンに不足していることはないかと探す姿勢を常に持っていました。しかも、即断即決の人です。経営トップを同じ人物が30年間も務める弊害はかならずあると思いますが、ダイキンの衰えぬ勢いをみていると一概に否定的に捉えるわけにはいかないようです。

日揮の中興の祖、重久さんも

 ダイキンの先例を探すとありました。日揮の重久吉弘さんです。重久さんは日揮を世界的なプラントメーカーに育て上げた「中興の祖」であり、中東や欧米、ロシアなど石油・ガスを産出する国に幅広い人脈を築いた日本のプラント業界の顔です。1996年に社長に就任し、2002年に会長兼CEO。2009年に相談役に退きましたが、同時にグループ代表という立場に就任しました。グローバルグループ代表ではないと思うかもしれませんが、日揮の事業領域はグローバルそのもの。社員の多くは海外駐在するのが当たり前で、日本に家族を残すと家庭の維持が心配といわれるほど。グローバルは社内の常識です。

 当時、日揮のホームページを見て驚きました。経営陣の顔ぶれを紹介するページにまず登場するのが重久グループ代表。そして会長、社長です。中興の祖とはいえ、当時の役職は相談役。経営の責任を追う立場ではありません。しかし、重久さんの功績、人脈を思い出せば、誰もが会長、社長の上にグループ代表が鎮座してもおかしいと思わないでしょう。それだけの実力とオーラを発する経営者でした。

 「グローバルグループ代表」という肩書きは、日本企業の事業が世界に広がり、将来の成長を創出するためにはグローバル展開するしかない状況を説明しているのかもしれません。本社は日本にあるものの、世界各地で事業を展開するためには過去に積み上げた成功体験と未来を読み取る経営者が欠かせない。その思いがグローバルグループ代表という職を生み出したのでしょう。その代わり、社長、会長は事実上、社内の目配りに注力する総務課長になってしまったのかもしれません

次代を担う人材育成への警鐘かも

 しかし、肩書きが変わっても、同じ人物が経営の実権を握り続けることは、企業の活力を生み出す多様性を失うのも事実です。グローバルグループ代表の存在は、次代に向けた新たな人材育成が急務である警鐘と見るのが正解ではないでしょうか。

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