欧州、経済安保に原子力を堅持、エネルギーのデファクトで主導権

 欧州連合(EU)の欧州委員会が原発容認に転じました。2022年2月2日、「EUタクソノミー」について協議し、持続可能な経済活動として原発、天然ガスを脱炭素を進めるエネルギー投資として認めました。福島第一原発事故を受けて原子力に対して欧州内は推進派のフランスなど、反対派のドイツなどと分断しており、今回の容認についても「総論賛成、各論反対」が実情です。しかし、EUにとってはそれが想定内の構図です。理想と現実を提示しながら世界のエネルギーのデファクトを握るEUのしたたかな経済安保を見逃してはいけません。

EUのしたたかな戦略が読み取れる

 タクソノミー(taxonomy)は分類学、分類基準などを意味し、もともとは生物学で使われた学術用語です。地球温暖化に対処する視点から、これまでの経済活動への投資基準を精査して継続するべきなのか、停止するのかを分類する趣旨で使っているようです。

 原子力は脱CO2の切り札として世界的に推進されてきましたが、東日本大震災で一変しました。福島第一原発のメルトダウンは旧ソ連のチェルノブイル原発事故に次ぐ甚大な被害を引き起こし、原子力発電は欧米でも新規建設が事実上ストップされています。

 EUの容認への転換では、原子力発電を再生可能エネルギーを軸にした社会に移行するまでのエネルギーと再定義しました。欧州委員会は2050年に温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標を実現するためには「使える手段を全て活用する必要がある」と強調しています。

 さすがEUです。地球温暖化に向けて世界の世論を主導する地位を掌握するために読みに読んだ老練な手です。欧州各国が太陽光や風力など自然エネルギーに傾斜する流れは変わりません。欧州はCP26でも演じたように脱CO2など温暖化ガスの削減を主導する地位を堅持し、米国や日本、中国、ロシア、インドなどのエネルギー消費大国に対する政治・経済の交渉力を維持しなければいけないからです。

 しかし、目先の現実を直視すれば、脱CO2の理想を貫くためには原子力への依存は避けられません。電力需要の7割を原発に依存するフランスが国策として原子力を推進していることは知られていますが、実はスウェーデンやオランダなど原発への依存はは避けられない姿勢を明確にしています。中国やインドなどで原発の新規建設計画が目白押し。慎重姿勢を貫けば、原発関連の技術や投資などで出遅れ、フランスはじめ欧州のエネルギー関連の企業にとって大打撃になりかねません。スウェーデンは2022年に入り、高レベル放射性廃棄物の最終処分場の建設を決めました。フィンランドに次ぐ決定です。日本では最終処分場をまだ決定できていないため、「原発はトイレのないマンション」と揶揄されます。欧州では「トイレ」を決め、原子力を産業として改めて認知し、継続できる土壌は整ったわけです。

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