27年前の軍事演習が蘇る2 見えない敵を追う多国籍軍 陸はトラック、空はパラシュート
ここまで読んで気づくと思いますが、仮想敵国のオレンジランドの軍隊は一度も目にしていません。私たちが目にするのは友軍ばかりです。軍事演習といっても、遠距離の移動や多国籍軍の連携に重きを置いているのかと勘違いしていまいそうでした。
仮想敵国は見えない、多国籍軍の連携が演習で試される
しかし、それは素人の浅慮でした。他国の軍隊と連携しながら作戦行動を展開できなければ、仮想敵国と対面しても成果は上げられないのだと後で教えられます。陸上でオーストラリア軍や米軍など多国籍軍が展開する一方、インドネシア軍の空挺部隊が空から参加して、仮想敵国に対抗できる布陣と兵力を整える。通常ではありえない他国の軍用機や兵器を共用しながら、かつ国ごとに異なる作戦司令の流れを確認しながら、多国籍軍としてまとまって作戦できるかどうかを確認する。机上で練り上げた作戦を計画通りに実戦できるか。今回の演習の大きな成果でした。
パラシュートで降下したインドネシアの空挺部隊の指揮官とインタビューする時間が設けられました。メディアはいろいろ質問するのですが、ほとんど答えてくれません。部隊長に笑顔はありません。メディアへのお愛想など微塵もないのです。目や口元など顔の表情は実戦に近いものだと感じました。
後でオーストラリア軍の広報官は「彼は実戦で優れた戦績を残しているリーダー」と教えてくれました。軍用機からの落下や地上での戦闘など高度な技術と勇気が求められる空挺部隊は精鋭の兵士たちです。実戦を知っている指揮官、兵士が演習だからと、気を緩めるわけがないのです。
インドネシア空挺部隊長の厳しい視線、カストロ議長と同じだった
後年、インドネシア軍の空挺部隊長と同じ厳しい視線を持つ人と会いました。キューバのフィデロ・カストロ議長です。2003年3月、カストロ議長は広島市を訪れ、平和公園や原爆資料館などを訪れました。広島支局長だった私はカストロ議長の訪問を至近距離に立って取材する機会がありました。
資料館で再現した原爆被害や展示品を見る表情はどんどん厳しさを増し、目つきが鋭くなってきます。その目を見てふとインドネシア軍の空挺部隊長の視線と同じだと感じました。戦争の悲惨さと非情さを映した人間の目、視線は違う。怖さを覚えました。