G7環境 日本に脱炭素の時間稼ぎしている暇はない 周回遅れから先頭に躍り出る蛮勇を
周遅れで走っている日本が先頭へ躍り出るチャンスが巡ってきました。今必要なのは勇気です。いや、理屈を超えた頑張りが不可欠ですから、蛮勇かもしれません。日本人が一番不得意で嫌いな言葉です。でも、目の前のチャンスをモノにするには蛮勇を持つ勇気が必要なのです。
議長国として欧米の要請をかわす
G7・主要7カ国が参加する気候・エネルギー・環境相の会議が4月に札幌市で開催されました。G7議長国の日本が議長特権を盾になんとか欧米の強い要求を交わした印象です。
合意内容を見てみましょう。CO2など温暖化ガスの排出を2035年までに19年比で60%削減する厳しい目標は温存されましたが、天然ガスを新たに対象に加えた化石燃料の使用は段階的に廃止、石炭火力廃止の明示は回避、電気自動車(EV)の目標は曖昧に設定するなど大半は努力目標に衣替えしています。
例えば欧州とカナダが求めていた石炭火力発電所の廃止時期の明記。原子力発電が立ち往生している日本は当面、石炭火力に依存せざる得ませんし、中国やインドなども依存度は大きく、世界でもトップクラスのCO2排出大国です。アジアの現実を見つめれば、石炭火力の廃止時期を明記するのは現実的ではありません。
石炭火力、再生エネ、EVすべて出遅れ
日本はEVや太陽光・風力など再生可能エネルギーの普及でも欧州に比べて周回遅れ。特定の時期を設定されても、間に合わないでしょう。
G7環境相会議は欧米日本など世界の政治・経済を主導する国々が参加します。地球全体を俯瞰して議論を交わしていると思いたいですが、今回の環境相会議で改めて浮き彫りになったのは、環境をキーワードにしたデファクトスタンダードの争いです。
例えば日本は石炭に代わる燃料としてアンモニアを提案しました。日本はアンモニア、水素を脱炭素の切り札と考え、世界でも技術開発が先行、国のエネルギー政策の主軸に据えています。しかし、欧州はアンモニアの実用化に時間がかかり、結局は温暖化ガスの排出が継続されるとして反対にあい、日本が期待したアンモニアの重要性は雲散霧消しました。
環境は主導権を握るキーワード
環境問題は地球温暖化と直結しているだけに、その根幹であるエネルギー政策は各国の思惑に左右されます。19世紀から世界のエネルギー利権を握ってきた欧米が簡単に手放すわけがありません。天然ガスの扱いを見てください。新たに削減する対象に加わりましたが、背景にはロシアによるウクライナ侵攻があります。欧州の経済制裁に対抗してロシアは欧州への天然ガス供給を絞り、大きく依存していたドイツなどが苦境に陥っています。
日本にとっても大きな影響があります。サハリン産の天然ガスは国内需要の10%を占めているほか、LNG(液化天然ガス)の利用は世界でも日本が先鞭をつけ、東京ガスや東京電力など都市インフラの重要なエネルギー源となっています。天然ガスはこれまでCO2の排出は少ないとされていましたが、欧州の事情で扱いは一変しました。
舞台裏は互いに牽制
エネルギーの未来をどう主導していくのか。地球温暖化防止という美名のもとで各国が互いに牽制し、蹴散らしているのが実情です。今回のG7環境相会議の議長国として日本は、なんとか自国のエネルギー事業を踏まえた立ち位置を堅守しました。しかし、それは2035年、あるいは2050年までのカーボンニュートラルへの時間稼ぎと捉えたら、国益の大きな損失です。
日本は今こそ「抜け駆け」を
日本が今すべきことは「抜け駆け」です。目標があいまいのまま合意された石炭火力の廃止、EVや再生エネの普及などはいずれ実行しなければいけないものです。石炭火力に代わる脱炭素型の発電、EVや燃料電池車、再生エネなどの多用な利用など新しい発想と技術はこれから進化します。欧米の歩みが鈍った瞬間に抜け駆けするのです。
日本は欧州を出し抜くように石炭火力を前倒しで廃止し、アンモニアや水素などを燃料に発電するインフラを構築する。フィンランドは世界最大級の出力160万キロワットの原発を稼働させましたが、原発など大規模発電の発想から抜け出し、中山間地が多い日本の国土を活かした小規模発電を集散させたソフトエネルギー・パスを先駆けて定着させるのも妙案です。
EVの開発も同じです。自動運転とセットで最も効率良い移動体を再設計し、この100年以上にできあがった自動車の常識を覆すチャンスです。
デファクトを握る快感を
欧州は過去の歴史を見ても分かる通り、法律、会計など制度設計で国、企業を問わず常にルール作りで主導権を握ります。言い換えれば、それが欧州の政治力の強さの源です。軍事力で米国や中国に劣っても、世界のルールとなるデファクトスタンダードを握っていれば、米中に対抗できる勢力を維持できる。そう確信しています。欧米が定めたルールに従うしかなった日本とは対照です。
G7環境相会議は、エネルギー全般に関してのルール作りがまだ発展途上であることを明らかにしました。表現が古いですが日本は障子の横紙を破る快感を思い出して、勇気を持って蛮勇になりましょう。地球環境を守るデファクトスタンダードの先頭に立って、旗を振りましょう。