北陸新幹線 40年前、敦賀までは夢にも、今は脱炭素の交通体系として新たな夢を

 来年2024年3月から北陸新幹線が石川県の金沢駅から南に延伸、福井県の敦賀駅までつながります。9月23日から金沢ー敦賀間の試験走行が始まったというニュースを見て、40年という長い歳月の経過に驚き、ちょっと感傷的になりました。「夢にも、本当に実現するとは思いもしなかった」。率直な感想です。

長野県知事は北陸新幹線不要

 今から40年前、ある新聞社の金沢支局の記者でした。「これから北陸新幹線の記事を送ります」と編集局に連絡すると、「そんないつ走るかわからない新幹線の話題なんて興味ないよ」と素っ気なく扱われました。直後に北陸新幹線の関連メモとして長野支局の記者から電話連絡が届きました。「長野県知事は、長野から先の新幹線は不要と話している」というのです。噴飯物です。でも、当時、きっと北陸以外の多くの人が、いや石川県、富山、福井3県の県民ですら同じ思いだったかもしれません。北陸新幹線って、走る日が来るのか?

 「北陸新幹線」を取材していると、森喜朗ら北陸出身の国会議員の口車にのせられているだけと揶揄されることもありました。実態はその通りかもしれません。しかし、北陸三県の担当部署は国が整備新幹線として計画しているのだから、地元の県が手を抜くわけにはいかない。「体面を保つためにも積極的な姿勢をアピールしなきゃ」と顔に書いているのですから、こちらも「計画が動いているのだから、記事を書かなくてはいけない」という顔で取材を続けたものです。

豪雪で孤島になる時、新幹線があれば?

 記事を書いている本人も、実現するなんて夢にも考えていません。ただ、全国に発信するニュースが稀な北陸です。原子力発電所と温泉以外でネタとなるのは北陸新幹線ぐらいと浅はかにも考えていました。

 新幹線が必要と痛感する時はあります。40年前の金沢は真冬の2月、全ての交通機関がストップして陸の孤島になる時期がありました。今では信じられないと思います。一晩で屋根まで積もる豪雪の影響で、空港も鉄路も道路もすべて閉鎖。年に何回かは金沢から出ることも訪ねることもできない日が続きます。

 新聞は毎日、配達するものと信じていたのですが、2日おきか3日おきに配達するものですから読者から「ふざけんな、新聞は毎日読むものだ」と罵倒される電話がかかってきます。そんな時、「新幹線なら、止まらないのかな」とボヤッと思い、やっぱり必要かなと納得したものです。

 北陸新幹線が具体化したのは1972年(昭和47年)。全国新幹線鉄道整備法が動き始め、翌年に1973年に整備計画の5路線の一つに選ばれました。1989年に高崎ー軽井沢間が着工し、1997年に高崎ー長野間が開業。長野ー金沢は在来線を併用しながら、延長され、2015年からフル規格の新幹線が走りました。

実現は政治力の為せる技

 時系列で見ると、なんとなくすんなり進んでいるように見えますが、舞台裏は政治力の為せる技。東海道新幹線は当時の国鉄のドル箱でしたが、整備新幹線は儲かるのかとの声が絶えませんでした。仮に建設が進んだとしても「金沢までならなんとかなるが、敦賀までは不要」。石川県の率直な声でした。敦賀まで延伸しても、その先はどうするのか。敦賀までの乗客はあまり期待できない。大阪か京都まで繋がるなら、関西方面からの乗客が見込めるが、そんなにカネを費やしても採算は合わない。北陸三県は歴史的な背景もあって仲が悪いのですが、こんな時に本音が出るものです。

 北陸新幹線は、良い意味で期待を裏切りました。2015年の開業以降は北陸の有名温泉地があるせいか、好調なスタート切りました。石川県七尾市の有名温泉旅館「加賀屋」を経営する小田さんは、「北陸新幹線の『かがやき』は『加賀屋行き』と皮肉られるほどたくさんのお客さんに来ていただいています」と苦笑したほどです。

 そして来年2024年3月には敦賀駅まで延伸します。福井県は今、県を挙げて恐竜をキーワードに一生懸命に宣伝しています。派手好きな石川県と対照的にとても生真面目な県民性を知っていただけに、その変わりように正直、驚きました。敦賀まで延伸しても、当面は東京、大阪いずれからも新規の旅客を上積みして北陸新幹線の収益を下支えするはずです。

 福井県の立場から見たら、敦賀より先をどうするのかが課題として残っています。大阪方面に繋がるのか、京都方面に延ばすのか。「敦賀で終着駅はありえない」と考えるのは当然です。

敦賀の先の延伸は発想の転換を

 しかし、ここは発想を大転換。日本の人口は減少し続け、特に地方の人口減は半端ない。今後、飛行機も新幹線も自動車も利用者数が大きく伸びるとは思えません。北陸は本州の中央部。アルプスが大きな存在感を示していますが、交通体系は他の地方に比べて恵まれています。北陸新幹線のさらなる延伸に巨額資金を投じるよりは、縮小する日本にふさわしい交通体系の再構築に資金と知恵を費やしてはどうでしょうか。地方観光を支える客層は国内から海外から訪れるインバウンドに移っています。彼らが楽しみ、日本を再び訪れたいと考える人流を創造しませんか。

 カーボンニュートラル、いわゆる脱炭素の流れから飛行機の活用は大きく変わるはずです。自然、新幹線の利用はさらに多様化します。北陸新幹線をモデルに東京、大阪、そして各地域の都市とのネットワークを構築することにエネルギーを注ぎたい。「そんな夢みたいなことを」と思いますか?敦賀まで新幹線がつながったのです。新たな夢も必ず実現します。

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