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ホタテが教える日本の危機管理能力 想定はしても最悪は想定しない 対策は結局、後追いに

 「ホタテまつり」があちこちで賑やかに開催しているはず。チラシの宣伝もあって、期待して大手スーパーをなん店か訪れましたが、期待とは程遠いサッパリしたもの。鮮魚売り場には帆立貝(ホタテ)は並んでいますが、とても特売している雰囲気じゃありません。他のお客さんも同じ思いなのでしょう。ホタテを探し見つけると「あれっ」という顔を見せています。

スーパーの店頭はいつもの品揃え

 中国が日本の水産物を禁輸し、漁業者は多額な在庫を抱えています。中国が大量に輸入していたホタテはその象徴の一つ。国内にあふれるのはわかっていたのですから、大好きなホタテの国内消費を増やして、少しでも日本の漁業を支援することになんの躊躇はありません。岸田首相も最大限の支援を連呼しています。

 誰もがいつもよりも鮮魚売り場の店頭は帆立貝が山積みになっていると予想したのではないでしょうか。でも、目の前の鮮魚売り場は違います。言動不一致が目立つ日本政府です。今度こそと期待したのですが、なんとも淡い期待に終わりました。ホタテに日本政府の危機管理能力の稚拙を教えられた思いです。二枚貝の帆立貝のように、口はパカっと開きました。

 最初は耳を疑いました。8月25日、野村哲郎農相は閣議後記者会見で、中国の税関当局が日本からの水産物の輸入を全面的に停止すると発表したことについて「大変驚いた。全く想定していなかった」。中国政府はこれまで東京や福島を含む10都県の食品の輸入を停止していたため、禁輸は10都県が対象と思っていたそうです。多くの人が「えっ」と驚いたはずです。

「全く想定しない」は、こちらも想定していない

 「全く想定していなかった」。同じ思いです。それは中国政府に対してではなく、農水省というか政府の外交能力がこんなに鈍いとは思いもしませんでした。中国政府は早くから処理水を「汚染水」と呼び、科学的根拠を無視して強硬に繰り返し批判しています。台湾を巡る安全保障問題を想起すれば、日本に対して中国がかなりの強烈な対抗策を講じるのは予想できますし、最悪の場合も含めて対応策を備えるのが外務省、農水省の仕事です。

 全く想定してなかった現実はどうか。ホタテなど中国向け輸出が多い北海道のオホーツク沿岸の漁港は、出荷が止まり在庫が山積みになっています。オホーツク海に面した北海道枝幸町では、町営の冷凍冷蔵施設は9割近くまで埋まっているそうです。稚内市に近い猿払村は高級ホタテを中国に輸出していますが、処理水放出前から大幅な値下げを要求されていたそうです。新聞などによると、「滞留しているホタテを国が全量買い取り、安価に提供するなど国が積極的に介入してほしい」と訴える声が出ています。

 ホタテの有名産地がこの惨状です。当然、北海道のホタテ事業は大打撃を受けます。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、ホタテの輸出額は900億円を超え、中国向けは5割以上。そのほとんどは北海道から輸出しています。

 中国で高級食材として知られる「干しなまこ」も深刻です。青森県の横浜町は味、品質の良さからむつ湾で漁獲するなまこの多くは中国向け。横浜町産のナマコは「横浜なまこ」として特許庁の地域団体商標にも登録されているほどの高い人気で知られています。地元の漁業協同組合は10月に解禁される漁を当面見送ることを決めました。

最悪の事態に備え、実行する力がない?

 岸田首相は救済策を明言、すでに設定した風評被害対策300億円、漁業継続支援500億円の基金に予備費から追加します。支援策は「消費拡大・生産持続」「風評影響対応」「輸出先転換」「加工体制強化」「迅速かつ丁寧な賠償」の5点で実行されます。
このうち
国内消費拡大はあらかじ政府が小売業界と話し合い、支援キャンペーンの準備を整えることができるものです。処理水放水前から国内の風評被害問題が指摘されていたのですから、アイデアとやる気があれば、すぐに実行できる支援策です。ガソリン代に補助しているぐらいですから、ホタテなど魚介類のセールに支援できないことはないのです。

 最悪の事態に備えて数多くの対策メニューをあからじめ揃える。そんな危機管理の基本が実践できないとは・・・。ここ数年、経済安保、台湾有事と盛んに連呼していますが、政府の危機管理能力を本当に信頼できるのか。ホタテを見ると、不安になります。

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