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JR宗谷線名寄→稚内・至福の4時間 (中)美深のビール、幌延のミズナラ、豊富の温泉、乳製品

 JR宗谷線は名寄以北から24カ所の駅があります。過去に訪れた駅、町村がいくつもありますが、以前から一度は考えていた町がありました。美深町です。「びふか」と発音します。

美深のクラフトビールは、羊をめぐる冒険

 発音の響き、漢字の見た目、いずれも美しいでしょ。アイヌ語の「ピウカ」の発音を漢字に置き換えたもので、地域が天塩川の川原、つまり石の多い場所という意味の「ピウカ」から由来します。このピウカ、私にはアイヌ語「ピリカ」と重なります、ピリカは美しい、かわいいという意味で、小さい頃「ピリカ、ピリカ・・・」と始まる子守歌を聴き、育っていました。ですから、全くの勘違いなのですが、ピリカと美深がオーバーラップして頭の中で美しい町、かわいい町というイメージが出来上がってしまったようです。

 今冬、スキー仲間の「美深に日本最北のクラフトビールがあり、とても個性的な味ですよ」という言葉に励まされ、美深町へ。名寄市から30分ほど車で走り、「美深白樺ブルワリー」に到着しました。古いレンガ倉庫内にビールの製造タンク、レストランがあります。すべてのビールに白樺の樹液を原料として加え、いろいろな素材と混合してクラフトらしい個性を醸し出すのが美深のクラフトビールです。

 ビールにそれぞれ物語があるのも良いです。例えば「羊をめぐる冒険」。村上春樹さんの有名な小説ですが、村上さんは美深の羊牧場を眺めて小説のモチーフを膨らましたそうです。その真偽は不明ですが、未年生まれの私は好きな小説です。早速、注文しました。ビールの外観が綺麗。ラベルのイラストは小説のイメージをうまく投射しています。味はもちろん、クラフトらしい。なんとも稚拙な表現で申し訳ないですが、「この味はほかには無いでしょ!」と問われたら「ハイ!」と即答できるビールです。

クラフトビールの種類はたくさん

 JR北海道宗谷線は上下線のすれ違いのため、何回か駅で長い待ち合わせが発生します。車両から降りて写真を撮ったり、その土地の空気を吸ったり。短時間でも宗谷線の沿線を体感できるのがうれしい。幌延駅では20分以上の待ち時間がありました。

幌延駅には移住支援

 幌延町は10年ほど前、日本原子力研究開発機構 が運営する幌延深地層研究センターを訪れたことがあります。地下350m以上も深い地層に放射性廃棄物の保管を研究しています。日本はエネルギー政策の柱に原子力発電を据えていますが、原発から発生する放射性廃棄物の最終処分地は未定です。「原発はトイレがないマンション」と批判されるゆえんです。

 幌延町には研究を続ける期間、国から一定期間の資金が投入されますが、北海道と幌延町は放射性廃棄物を持ち込まれることはないとする協定を結んでいます。北海道の北端のサロベツ原野は乳牛など酪農が盛んな地域だけに、研究段階ならまだしも最終処分地までは絶対に認められないが、地域の衰退を抑えるためには背に腹は代えられないという苦渋の思いを感じます。だからなのか、地域の名産を増やそうとトナカイの観光牧場も開設しており、めったにない機会なのでトナカイの肉料理も味わいました。

ミズナラを使ったスモーキー・フレーバーな日本酒

 いろんな思い出が蘇ったこともあって、幌延駅舎内に入ると、「ホロカル」の看板が目に入りました。お土産のコーナーと思い覗くと、トナカイの角を使ったアクセサリーのほかに町特産の「ミズナラ」を使ったワインや日本酒などが並んでいます。初めて見ました。スモーキー・フレーバーの味が売りとありますが、「日本酒のスモーキー・フレーバーって?」という謎が消えず、購入してしまいます。

 レジに持って行くと、会計をしてくれた女性はアトピー性の症状の強い方でした。「そういえば、幌延町に近い豊富町にはアトピー症に効く豊富温泉」があることを思い出しました。私も皮膚が弱く、息子がアトピー症で悩んだ時期がありました。豊富温泉に一泊して効能を試すとともに、長期療養する人たちとお話しした経験があります。療養のため、移住する人もいると聞いていました。

豊富町はアトピー症に効く温泉、乳製品

 ミズナラの日本酒を購入したレシートには「幌延町移住情報PR支援センター」と記載されていました。ホロカルは移住者の支援の一策だったんですね。幌延町や豊富町などは酪農が盛んとはいえ、人口減が日本最速で進んでいる北海道の他の市町村同様、人口が増える見込みはありません。

 豊富温泉があの個性的な温泉を体感すると、地域活用の力を増す試みとして挑むのは納得します。重油のような感触ですが、一度温泉につかると体への浸みる体感は他の温泉と全く違います。初めて訪れた時、旅館の経営者に「もっと売り出しても良いのではないですか」と訊ねたら、「温泉の泉質の力は素晴らしいけれど、経営する手間などを考えたら、いつまでやってよいのか迷っている」と胸の内を語ってくれました。それから長い年月が過ぎましたが、幌延町の移住支援や最近の豊富温泉の長期療養への支援策をみていると、地元の力にしようと挑んでいるのがわかります。とてもうれしい。

 幌延町に隣接する豊富町は、もうその名の通り乳製品で富を豊かにする勢いです。セイコーマートが乳製品の目玉に売り出しており、実際に飲めばわかりますが、「うまい!」。豊富町は乳製品と温泉を軸に全国発信に力を入れています。駅構内も乳牛を模した渡り廊下、看板もあります。うれしいなあ、この遊び感覚。「自分たちが納得した方策で地域を存続する」という意思が感じられます。

 宗谷線の各駅に掲げられている地域の紹介や駅舎内などをみていると、地域が直面している現実をひしひしと感じます。宗谷線の素晴らしさを夢想しているだけでは収まらない現実の厳しさを思い知ります。

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