ホタテの殻剥きと内閣支持率最低 岸田政権と霞ヶ関の素顔も剥ぐ 仮面の本気度を剥き出しに
岸田政権がフラフラしています。新聞社などの内閣支持率はそろって低下しており、政策の実行能力に疑問を抱く国民が増えてている表れです。国全体の議論を経ないで防衛増税の方向性を定めたと思えば、増税を還元する名目で減税を表明。国に支払う税金が増えるのか減るのかさっぱりわかりません。岸田政権を支える霞ヶ関の官僚も、本気で支えているのかどうか。自らの保身もあるのでしょうが、首相や大臣からの指示を丸呑みして政策として実効性に疑問があってもすぐに軌道修正する姿勢が見えません。迷惑を受けるのは国民ですが、どこかに置いてきぼりになっている気分です。
政策実行能力を裏付けたホタテ
最もわかりやすい例が「ホタテの殻剥き」。東京電力の福島第一原子力発電所事故の処理水放水に伴う中国の全面禁輸に驚き、繰り出した苦肉の一策「受刑者による殻剥き」です。岸田首相は処理水放水に対する国際世論の批判、風評被害などに万全の対策を講じると表明していましたが、中国政府が打ち出した日本から水産物の全面禁輸に対し当時の農水相が「全く予想しなかった」と吐露するほど慌て、その後のバタバタぶりも目を覆うばかりでした。万全な対策はどこにあったのか。
中国で大人気の北海道産のホタテは全面禁輸で行き先を失い、在庫の山に。しかも、米国向けホタテは中国で殻を剥き、貝柱を輸出していたため、中国内の消費のみならず北米向けなども輸出できない窮地に追い込まれました。思わぬ苦境を打開するため、自民党の萩生田政調会長の提案をきっかけに受刑者によるホタテの殻剥き作業の検討が政府内で始まりました。刑務所を管轄する小泉法相は検討する旨を表明、具体化する流れが生まれていました。
ところが、どんでん返しが待っていました。世界貿易機関(WTO)の関税貿易一般協定(GATT)で賃金が低い刑務所を利用した製品化は不当競争を招くとして輸入規制することができるのです。米国、カナダなど北米は輸入規制を課していました。「そうか、そんな落とし穴があったとは」と驚くかもしれませんが、その驚きを生む根源こそが岸田政権の政策実行能力の低さを表しているのです。受刑者の制作品は安くて出来が良いので評判です。労働費が低く設定されているからで、素人でも知っています。ホタテの殻剥きの話が広がった時、「安い労働費を使って輸出できるの?」と多くの人が素朴に受け止めていました。
霞ヶ関は実力者の発言に黙って従う
もう一度経緯を振り返ります。自民党の実力者、萩生田政調会長が発言したのをきっかけに農水省、法務省など政府内で検討が始まりました。岸田首相が万全を期すと表明したにもかかわらず、農水相は予想外の中国禁輸に慌てる姿を見せ、国民から本当に日本の水産業を守る覚悟があるのかを疑われます。みっともない取りこぼしを打ち消すために、弥縫策として思い付きで浮上した「受刑者によるホタテの殻剥き」に飛び付いた格好ですから、政策をまとめ上がる農水省と法務省らの官僚は実行に向けて動くふりをせざるを得ません。
「動くふり」と敢えて表現したのは、受刑者による作業を介したらWTOに抵触することを多くの官僚は知っていたからです。WTOは貿易関連なので農水省や法務省は部外者というわけはありません。貿易業務は日本の行政に幅広く関わっているわけですから、「受刑者の作業による北米向け輸出」はもともと無理筋であることを経産省以外の多くの官僚は知っています。
しかし、萩生田政調会長が発言し、内閣として取り組むとなった手前、「それは無理です」とブレーキをかけるにはなかなか勇気が必要なのでしょう。毎日新聞の記事によると、法務省矯正局の担当者のコメントとして「米国に輸出できないのは常識で、当然のこと」と紹介していますが、それはどの省の担当者に聞いても同じコメントが出てくるでしょう。
一事が万事。ホタテの殻剥きの顛末は、岸田首相が進める政策の中途半端さを物語っている一例です。
読売で内閣支持率は最低に
読売新聞が11月中旬に実施した世論調査によると、岸田内閣の支持率は24%。2021年10月発足以来最低です。1ヶ月前の前回調査は34%ですから10ポイント下落しました。一方、不支持率は62%。前回調査は49%。13ポイントも上昇しました。自民党が政権復帰した12年12月の第2次安倍内閣発足以降、21年9月の菅前内閣の31%を下回り、初めて20%台となったと伝えています。
「新しい資本主義」から始まり、「異次元の子育て対策」、40兆円超の防衛費増額など目を剥く大型政策が打ち上げられました。しかし、結局は、岸田政権の打ち上げ花火に終わるのでしょうか。結末はどうであれ、政府、与党、霞ヶ関が本気で政策実行するために、不可欠な一体感が見当たらない実態が剥き出しになっているのは事実のようです。