宇宙を眺めて地球を知る 東京・三鷹の国立天文台 夜空は明るくても月は見える

 東京・三鷹市に国立天文台があります。ハワイ島のマウナケア山頂にある「すばる」の本部です。北海道名寄市の「きたすばる」、米国ハワイ州のマウナケア山頂の「すばる」と続けたので、最後は日本の天文学研究の中核である国立天文台を訪れたいと思います。

国内外の研究・施設の元締め

 正式名称は長い。大学共同利用機関法人自然科学研究機構国立天文台。漢字が23個も並び、一気には読めません。「寿限無寿限無・・・」に負けません。ただ、お経と違って漢字の並びをみれば天文台が何をやろうとしているのかは明快です。大学の共同利用機関として全国の天文学の研究者と一緒に観測や機器の開発などを担う「日本の天文学の中核」です。

 東京都三鷹市といえば23区に隣接する大都市。とても天体観測に適した場所とは思えませんが、かつては空気が透き通り、天体観測に適した土地でした。明治時代、本郷の東京大学に設けられた天文台が飯倉に移転した後、1924年(大正13年)に今度は北多摩郡三鷹村大澤に移転したそうです。日本の経済発展に伴い東京都内の明るさが増し、都会の明るさに追われるように三鷹まで移ってきた経緯が目に浮かびます。

 現在、天文台の周辺は三鷹市の天文台通りと呼ばれ、立派な住宅が並ぶ街です。だからなのかもしれませんが、大手の企業経営者のご自宅が集まっており、現役記者のころはたびたび「夜回り」と呼ばれる取材で天文台通りを目標に向かったのを覚えています。「天文台通りに向かって」とタクシーの運転手さんに言うと、すぐに分かってもらえる由緒正しき場所です。

 その懐かしい国立天文台をコロナ禍前に見学しました。門構えから国立天文台らしい威厳と歴史を感じます。歩いて敷地に入っていくと、ジブリの森林に迷い込んだ勘違いするほど三鷹市の住宅街と隔離され、観測関連の建物も味があります。ヨーロッパの王様が愛した庭園にあるユニークな形状の建物といった印象です。

 三鷹市の本部は太陽や惑星などの観測や研究が行われていますが、観測自体にハンディがありますから、天体観測の主業務はハワイの「すばる」はじめ国内外に多くの観測施設が担っています。やはり本部の役割は国内外の観測や研究の連携や調整などを担う元締めといった感じですか。

「すばる」に続く巨大望遠鏡の建設計画も

 国立天文台が現在、「すばる」と並んで世界的な規模で観測体制を組んでいるのが南米チリのアカタマ砂漠にあるアルマ望遠鏡です。砂漠の標高はハワイのマウナケア山頂より800メートルも高い5000メートル。この国際プロジェクトで建設された電波望遠鏡は138億光年の宇宙の光を観測します。宇宙のビッグバン直後の世界です

 ハワイのマウナケア山頂では「すばる」をはるかに上回る超巨大な反射望遠鏡の建設計画も進んでいます。望遠鏡の口径はなんと30メートル。すばるの4倍近い大きさです。ただ、予定より計画は遅れています。

 マウナケア山頂の「すばる」でも触れましたが、ハワイの先住民にとってマウナケアは神聖な場所。不可侵です。それを望遠鏡を建設するために自然が破壊されることは認められません。今も建設計画に関する協議が進められているそうです。

https://www.nao.ac.jp/

最も感動したのは研究者の熱い思い

 三鷹の国立天文台を訪れて最も感動したのは、なんといっても研究者のみなさんの熱さです。望遠鏡などの施設見学、あるいは最近の研究内容を説明していると、どんどん表情も口調も熱気を帯びてきます。太陽のフレアの説明をしながら、太陽が発する高熱を上回る熱い気持ちが伝わってきます。

 「こんなにおもしろいもの、世の中にないですよ、知らないとみなさん、損ですよ」と言わんばかり。私の兄は化学の博士号を取得しているのですが、「天文学は研究、観測のスパンが何十年単位と長いので、長生きしないと結果を見届けられない。研究を楽しみながら長生きできるから、最高の学問だよ」と冗談まじりに話していたのを思い出します。

 なにしろ国立天文台のホームページの動画は「宇宙からのメーセージ」から始まり、最後は「すべての答は宇宙にある」で終わります。天文大好き少年だっただけに、「すべての答は宇宙にある」と言われると、なぜかじ〜んと来ます。その答を探るなかで、私たちがなぜ地球上にいるのかがわかるのかもしれません。

「全ての答は宇宙にある」は、生活する地球も同じ

 三鷹市に限らず東京都内の空は深夜になっても明るい時が多いです。しかし、満月はもちろん、新月でも鮮明にその切れ味を見せてくれます。国立天文台の研究者が教えてくれました。「東京でも星は結構、見えるんですよ」。

 見えるかな、見えないかな、と迷ってはいけないのです。宇宙を眺めていることは、自分たちが生活している地球を見つめていることなのですから。

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