マンション平均価格が億超え、都市の空洞化と遠心力を加速 若者疎外の時代へ

  ようやくタワマンの雰囲気が出てきました。北海道のJR旭川駅前で建設が進むタワーマンションを改めて目にし、北海道の不動産投資の熱さを実感しました。地上25階、151戸。「プレミスト旭川ザ・タワー」。札幌市でタワマンの建設ラッシュが話題になっていましたが、旭川市では初めての物件です。

旭川駅前のタワマンが姿を表す

 事業主体の大和ハウス工業のHPには「2LDK63・1㎡3490万円(税込)から、3LDK72・49㎡3890万円から(税込)」とあり、HPには記載されていませんが最も高額な最上階の4LDK156㎡は3億5000万円。上層階の40戸が売り出されましたが、最高額の部屋も含め9割が契約済みだそうです。

 北海道の2人以上の世帯の平均年収は587万円、全国で33位。かつてマンションの購入限度は年収の5倍といわれていましたが、マンション価格の高騰もあって5〜7倍といわれています。最も高額な部屋はとても無理としても、旭川のタワマンもなんと手が出る範囲とみるべきなのしょうか。もっとも、すでにタワマン人気が広がる札幌では、日本人富裕層のほかにアジア系の富裕層、投資家がニセコや富良野など北海道の高いリゾート人気を理由に盛んに購入しているといわれており、地元住民が生活用として購入する事例は限られているとみるのが現実的です。

東京23区は平均1億円超

 東京はもう半端ないです。不動産経済研究所が発表した2023年の平均価格は、東京23区が1億1483万円と前年に比べ4割近くも上昇し、初めて1億円を超えました。東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏でみても、8101万円と3割近く上昇。さすがに発売戸数は前年比9%減の2万6886戸と1992年以来の低い水準にとどまりました。東京23区はこの5年間で6割も価格が上昇しています。用地取得費や建築コストの上昇が販売価格を押し上げているとはいえ、神奈川、埼玉両県の上昇率は1割超ですから、東京の異常さがわかります。

 東京の2人以上の世帯年収は756万円。全国2位。購入上限を単純に年収の5倍〜7倍の範囲と想定すれば、6000万円程度の物件。東京23区は平均1億円超ですから、購入は不可能です。もう5年ほど前から不動産会社の人と雑談すると、「若い層が東京で新築マンションを購入すのはもう無理」と苦笑していましたから、現実になっています。

不動産会社は高額物件を増やす

 ところが、マンションを供給する大手不動産会社は、高額物件を増やしています。三井不動産が販売した西新宿の40階建てのタワマンは280戸ありましたが完売。平均1億4000万円。野村不動産、東急不動産などももっと高額物件を扱い、最近では数十億円、数百億円といわれるマンションを備えた再開発計画が進んでおり、天井知らずの状態です。

 アジア系の投資家は「高額であればあるほど魅力的な物件」とみているそうです。日本の経済、社会の安定度に加え、海外に比べ割安感がある不動産投資を「今がチャンス」と判断しています。日本のタワマンが東京のみならず札幌、旭川のような地方の有力都市でも高額化する流れは止まりそうもありません。

 日本の経済はこの30年間、ほぼ成長率はゼロ。年収も伸び率ゼロ。ここ数年は消費物価が3〜4%の勢いで上昇しているにもかかわらず、賃上げは3%程度ですから実質的には年収はマイナス成長。この状況下、マンション高額化の波は、日本の若者に新築マンションの購入を諦めろと囁いているようにみえます。

シドニーやオークランドは若者が都心に住めない

 事実、オーストラリアのシドニーやニュージーランドのオークランドでは、もう10年前から「若い層が都心に住めない」との批判が上がっていました。中国などアジア系の不動産投資が拡大し、新築マンションが次々と購入されているからです。不動産物件は増えていますが、とても手が届かない。まさに日本はシドニーやオークランドと同じ状況に突入しようとしています。

 ただでさえ日本は人口減で若い層が減少しています。若者が大都市圏の都心部に住めない現象は、日本の社会・経済にどのような影響を与えるのでしょうか。インターネットなど情報技術の進化でリモートワークが可能になり、コロナ禍で体験済み。日本の人口動態は、不動産物件が割安な大都市圏の周辺部に拡散するのではないでしょうか。地方への移住も含めて都市の中心部が空洞化する遠心力が加速する可能性は否定できません。

都市の活力は?

 札幌市の大通り公園に新築したタワーマンションが立った頃の風景が忘れられません。完売済みの物件ですが、夜になると部屋に灯りが点るのは半分程度。上層部はちょっと暗さが目立ちます。日常生活している人はどの程度いるのかと思ったものです。同じ経験はオークランドでも。都心部に立ち並ぶマンションから灯りが漏れてきません。夜を見る限り、都市、街の活力が失せたかのようでした。

 ニュージーランドの人がぽつりと話してくれました。「都市は、こうやってだめになっていく。若者を疎外しちゃいけないんだけど、不動産投資は逆の方向へ走っている」。あと数年過ぎると、日本でも同じコメントをつぶやく人が増えるのでしょうか。

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