宇宙を眺めて地球を知る Mahalo マウナケア②天と地が染まる

 サンセットが始まります

 午後6時が過ぎました。夕焼けが始まります。ここはハワイ島マウナケア山頂、サンセットと表現した方が良いでしょうか。

 といっても、夕焼けを楽しめるかどうか。4200メートルのマウナケア山頂に到着してから10分ぐらい過ぎた程度です。ところが体内ではすでに酸素不足を知らせるアラームが鳴り始め、なんとも表現できない気分に。

 「夕焼け後、空がどう変わるのか」。同行するガイドさんに質問しようと思っても、脳が頑張って捻り出した言葉を声と舌がうまく伝えてくれるか。マウナケア山頂に立っているはずの両足も覚束ない。地面を踏んでいるのに腰から下がフワフワ。体内エネルギーの源である酸素が不足すると、こんな状態に陥るのかともう1人の自分が眺めているのがわかります。

 さらにやばい状態に進んだら酸素マスクかなと一瞬、思いましたが、せっかく未体験ゾーンの4200メートルにいるのです。楽しまなきゃとスイッチを切り替え、空回りする脳を励まして眼下の雲海と天上を赤く染め始めたサンセットに集中します。

夕陽が白い雲海を染め始めます

 前日は視界が悪く中止になったサンセットツアー。本日は幸運に恵まれ、期待以上の視界が広がります。沈み太陽が周囲を真っ赤に染まるというよりは、線香花火が落ちる寸前の丸い光の玉のように紅色が輝き、太陽が姿を沈める雲海の白さをどんどん際立てていくようです。太陽は向かい側に見えるマウナロア火山の影に隠れるように沈み込んでいきます。

 地球を感じます。360度すべてとはいいませんが、少なくとも視界270度は雲海に包まれ、マウナロア火山の頂上に向かって夕陽が近づき、輝きを増します。気温は10度程度だったはずで、ダウンジャケットなど防寒の準備は整えていましたが、夕陽が沈み始めるとともに、気温も下がっていきます。

感動しても深呼吸は禁止

 いつもなら、雄大な自然に思い切り感動したいのですが、興奮して呼吸が激しくなると酸素不足が脳に直撃しそうで、できません。口を細めて小刻みに息を吸いながら、感動するしかありません。

 むしろ、それが幸いでした。あちこち動き回れないので、夕陽、赤く染まる雲海の変化をじっと見つめるしかありません。私たちが立っているマウナケア頂上に集まる天文台も色付き始めます。思わず涙がこぼれそうになります。

 天文台の一つがギィーギィーと音を鳴らして、大きな窓を開け始めました。夕陽が完全に沈んだら、紅い夕空は夜空へ。今度は360度全てが漆黒の闇に包まれます。すべての天文台が観測に向けて準備を始めたのでした。

天文台が動き始める

 真っ暗な空間に居ながら、「そうだ、天文台はこれから仕事を始める時間なのだ」と気づきます。日本のすばる天文台のスタッフはハワイ島ヒロに拠点を設けて望遠鏡などを操作しているそうですが、山頂にある13基の天文台に関わるスタッフは世界中のどこかで今夜追いかける星に照準を合わせて慌ただしく作業しているのでしょう。

 太陽が沈めばマウナケア頂上は闇に包まれるだけと思っていたら、山頂の天文台を通して世界の多くの天文学者が宇宙を見つめるのです。むしろ、耳に聞こえはしませんが、天文台のドームが開き、巨大な望遠鏡が赤道儀に従って目指す天体を探し始める風景が思い浮かびます。

宇宙を見つめる地球を感じる

 興奮した気持ちを抑えるため、一度深呼吸したいところですが、深呼吸した途端、意識が一瞬消えそうな不安があるので、口を細めてスゥースゥーするだけで我慢するしかありません。

 薄い空気を吸いながら、実感はあります。私たちの地球は宇宙に無限にある銀河の端にあり、その地球の一点に立っているだけです。しかし、宇宙と地球をひとつに体感できるのです。

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